セミナーに積極的に出席し、耳を傾ける機構長。10年にわたって電機メーカーに勤務していた筆者は、かつてメーカーのトップに多く見られた「現場主義」を思い浮かべる。

東北大AIMRの内部。明治時代に建造された外壁がそのまま残されている建物の中に、近未来的な風景が広がっている。外壁が、工事中に東日本大震災に見舞われたにもかかわらず奇跡的に残った経緯は、こちらの記事にある
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 東北大学AIMRの特徴の1つは、機構長による徹底したトップダウン体制だ。また、意思決定を迅速化するため、教授会も設けられていない。機構長・事務部門長・5つの研究グループリーダーによる「運営会議」は設けられているけれども。「これからは、大学だからこそトップダウンが必要なのでは?」「いや、これからも大学は民主的に運営されるべきでは?」などと考えを巡らせる前に、もう少し、東北大AIMRの運営が実際にはどのように行われてきたのかを見てみよう。

「2012年4月、私が機構長になってから最初にしたことは、今後のAIMRの研究方針を皆さんと考えることでした。2007年度から2011年度までの5年間で、初代機構長のもとで、材料科学分野での異分野融合研究体制は出来上がっていました。それを数学で加速すること、数学の力を使ってさらに推進することが私のミッションでした。だから最初に、AIMRとしての研究方針を明確にする必要があると考えたのです」(小谷氏)

 小谷氏が「皆さんと考える」にあてた期間は、約1年間であった。

「材料科学と数学との関係を、どのようなコンセプトにすればいいのだろうかと、徹底して考えました」(小谷氏)

 もちろん、「コンセプトを考える」だけに約1年間を費やす余裕があるわけはない。しかし「機構の研究方針は最も大切な問題」との認識から、研究にかかわる日常の業務を遂行する多忙な日々の中で、コンセプト立案に必要なミーティングや議論のためにも時間が確保されることになった。

「定期的ではなかったですけど、かなり長い時間をかけました。1回あたり2~3時間のミーティングやディスカッションが、1ヵ月あたり2回か3回は開催していました」(小谷氏)。

東北大AIMRの上部はガラスのドームとなっている。晴れた日には太陽光で明るく快適な風景が広がる。ドーム直下に、小さな談話スペースが設けられていたりもする
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 PI(主任研究者)との1対1のミーティングも行われた。ちなみに2012年4月当時、東北大AIMRには31名のPIがいた。アポ取りや連絡に必要な時間を含めれば、PIとのミーティングに約100時間程度がかけられたと考えてよいだろう。

 この他、若手研究者とのミーティングも行われた。5つの研究グループ・研究ユニットごとに、メンバーとの議論という形である。同じく2012年4月当時、PIではない研究者は97名であった。

「あなたの分野に『プラス数学』で何ができると思いますか? という内容のアンケートを取って、さらにそれをもとに、5つのグループのグループリーダーとディスカッションをしたりもしました」(小谷氏)