「失敗」から生まれた
ノーベル賞級の科学的発見

 科学において、完全性や無謬性の追求には意味がありません。科学的進歩とは、最初から試行錯誤が前提だからです。どんな名論文であろうと最初から完成されていることはなく、その内容は革新的なものであればあるほど、多くの科学者たちの疑惑の目や追試、反証の嵐をくぐり抜けていくことになります。

 科学誌ネイチャーの論文だって、同じこと。STAP論文の不備を指摘するのは健全な科学のプロセスですが、その前提は「間違っていて当たり前」であって、「完全であるべき」などではありません。失敗を活用し、そこから学ぶことこそが、飛躍につながるのです。

 たとえば、「失敗」に起因する大発見・大発明の例は、枚挙にいとまがありません。

田中 耕一(2002年 ノーベル化学賞):間違った試料を混ぜてしまったが、捨てるのは勿体ないと思ってテストしたら、目的のタンパク質の質量解析ができていた。

白川 英樹(2000年 ノーベル化学賞):韓国人留学生が指示を間違えて1000倍の濃度で実験。「失敗した」ともって来た生成物の価値を見抜いて、実験を続け、「高伝導性プラスティック」への発見へとつながった。

江崎 玲於奈(1973年 ノーベル物理学賞):不純物の濃度を上げる実験をスタッフにさせていた。「失敗しました」と出してきた非常識なデータ(不純物を増やすと電気がより通る)を探究して「トンネル効果」を発見。

ジョン・バーディーン(1956・1972年 ノーベル物理学賞):ウィリアム・ショックレーのもとで半導体での信号増幅実験をしているとき、ミスで電極をくっつけてしまったが、そこで大きな増幅効果が見つかり、状況を解明してトランジスタの発明1)に。

 もちろんこれらはただの「幸福な失敗」ではありません。こういった(幸運な)失敗は、どんな研究者にも訪れますが、それを逃さずつかまえることができる人とできない人がいる、ということなのです。

 それこそが才能なのかもしれません。もしくは努力なのかも。

1 ベル研究所で点接触型トランジスタを完成させたのはバーディーンとウォルター・ブラッテン。ショックレーは接合型トラジスタを実現させ特許をとった。