通常「トップダウン」という用語から連想されるものは、このような徹底した議論のプロセスを含んではいないであろう。むろん、大学だから「1年」という期間をかけることができたという側面はある。

 また、「研究方針こそが最重要であると考えたからこそ、徹底した議論が可能であり、必要でもあった」という側面もあるだろう。研究者の「議論」においては、同意できない点や見解の相違を「調整する」「まとめる」ということは重視されない。なぜ意見や見解が異なるのか・どこは同意でき、どこは同意できないのか・そもそも同じ事実に対して議論しているのかといったことを一つ一つ論理的に確認しながら、結論へと進んでいくのである。基本的には、「発言力が強い人の『鶴の一声』で決まる」でも「場の雰囲気で決まる」でもない。

目標は具体的に、コンセプトも共有
世界トップレベルの研究拠点であり続けるには?

 これらの議論が積み重ねられた結果、研究の具体的な目標として、「3つのターゲットプロジェクト」が設定された。各ターゲットプロジェクトは「数学的力学系に基づく非平衡材料」「トポロジカル機能性材料」「離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料」である。といっても、物理学で大学院修士課程を修了した筆者自身、「数学の何を使って、どういう材料に結びつけようとしているのかくらいは分かるけれども、それ以上の理解はすぐにはできない」という感じだ。理工系学部の出身でも、現在その分野に接していなければチンプンカンプンであろう。

 しかし、たとえば「数学的力学系に基づく非平衡材料」は「金属ガラスやポリマーのような非平衡材料の構造と物性、また、それらの形成メカニズムや安定性を解明し、非平衡状態に潜む共通原理に基づく新規機能の発現を目指す」と説明されている。この説明ならば、この分野の研究に若干でもバックグラウンドを持つ人ならば、「何に対して何をしようとしているのか」は、かなり明確にイメージできるだろう。

東北大AIMR内に設けられたミーティングのためのスペース。参加者がそれぞれ、思考を妨げない姿勢で会話することのできる工夫が凝らされている
Photo by Y.M.

 さらに、「具体的なターゲット」として「金属ガラス、ポリマーガラス、ブロック重合体、生体模倣材料、超ハイブリッドや機能デバイスなどのグリーンな社会に貢献する材料、デバイスをターゲットとしていく」とある。

 ここまで見れば、馴染みの薄い用語があったとしても、あるいは研究内容そのものに関するバックグラウンドがなかったとしても、「ここ数年重要な課題となっている『持続可能な社会』を作ることが目標で、そこで使われる材料や部品を作ろうとしているようだ」「非平衡材料というものと数学を組み合わせたら、それが実現できるようだ」という理解、大枠のコンセプトレベルでの理解は可能であろう。かくして、明確で共有しやすいコンセプトが作り上げられたのである。

 小谷氏は、

「東北大AIMRには、私が機構長になる前に5年間の蓄積がありました」

 という。その蓄積の上に、徹底した議論が行われ、現在の東北大AIMRがある。