「生活に溶け込む」ことをコンセプトに掲げる
難聴者サポートシステム

 補聴器だけでなく、難聴者向けスピーカーも進化している。

「COMUOON(コミューン)は、小型マイクと小型スピーカーがセットとなったコミュニケーション・サポートシステム。難聴者と健聴者のコミュニケーションを円滑に橋渡しするプロダクトです」(ユニバーサル・サウンドデザイン 中石真一路社長)。これは、話し手が専用マイクに向かって話すと、難聴者にとって聞き取りづらい高音域や周囲の雑音を抑えた音がスピーカーから出てくるというものだ。

「補聴器の利用など、音の受け取り手が“聞こえ”を改善するのではなく、話す側の取り組みによって難聴者とのコミュニケーションを図る必要がある」(中石氏)と考えたところから開発を進めた。都内の中学校にテスト機を貸し出し、難聴の生徒に使用感を聞いたところ好評を得たため商品化を決めた。現在は病院や自治体などに向けて、50台以上を納入している。

試作を繰り返した結果、シンプルな2ピース構造にたどり着いた「COMUOON」。外装材の振動を抑え、声や音の明瞭度を高めている。本体価格19万5000円(税別)

 2012年に日本補聴器工業会が行った調査(対象1万5000人)によると、74歳以上の43.7%が難聴者または難聴を自覚している。高齢者人口の増加に伴いこの数字は上昇し続け、2013年における日本国内の補聴器は出荷台数ベースで53万台、金額ベースで313億円という巨大市場を築いている。

 しかし、利用率は低い。難聴者の14.1%しか補聴器を利用しておらず、COMUOONのような難聴者に向けたスピーカーも十分に浸透しているとはいえない。その理由は、個人には割高感がある購入のための費用や、音声言語機能を得た後に聴力が下がった中途難聴者が覚えている音と実際に聞こえる音との違和感などさまざま。そしてなにより“補聴器を使っていることを知られたくない”という点も見逃せない。

「難聴者の平均年齢は年々下がってきています。健康づくりというとジョギングやダイエットをイメージする人はたくさんいますが、加齢と共に耳が悪くなるといった認識を持つ人はいません。『最近、声が聞き取りづらいんだよ』では遅いのです。そういう意味でも、補聴器とスマートフォンの親和性が高まり、デザイン面での取り組みを軸に“聞こえ”をサポートするプロダクトが広まるのは、難聴者および難聴者予備軍にとっていい傾向だと思います」(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員 大沼直紀氏)

 機能の充実は当然のこととして、まずは手にとってもらうための努力を各社行っている。「聴力が衰え始めるのは30代」(大沼氏)である以上、予防の意識を高めるなど、早めに対策をとった方がよいのは間違いない。

「みる」と読む漢字と比べ、「きく」を表す漢字は極端に少ないのだという。つまり、人間の「聞こえること・聞こえないこと」への関心は「見ること・見えないこと」ことに比べてケタ違いに低いのだ。難聴を身近なトラブルとして受け入れ、正しく理解する社会になるにはまだまだ時間がかかりそうだが、生活に取り入れたくなるような、ハイテクかつスタイリッシュな機器の登場は朗報だ。

(筒井健二/5時から作家塾(R)