最初にオファーするという
選択肢も用意しておけ

 私が「オープニングオファーは相手に促せ」という話をすると、「相手がどうしても最初にオファーしてくれないときは、どうしたらよいですか?」と聞かれることがある。たしかに「先にご希望の条件をお聞かせください」と促しても、応じてもらえないこともあるだろう。

 そういう場合は、最終的には取引の力関係で判断するしかない。相手のほうが立場が強いときに、いつまでもオファーを促すのは得策ではない。

 こうした状況を想定して、最初にオファーするという選択肢も用意しておこう。自分のオープニングオファーによって交渉を優位に始められるよう、あらかじめ考えておくのだ。

 クライアントの代理人として、子会社の売却交渉に臨んだときのこと。

 会社の価値には相場があってないようなものなので、なるべくなら相手に先に希望買収額を提示してもらいたい。しかし、それは相手も同じこと。こちらが繰り返しオファーを促しても、買い手の代理人は「まだきちんと検討できていないから、買収額は出せない。そちらの希望売却額を先に言ってくれ」と引かなかった。

 このときは、クライアント側に一刻も早く子会社を売りたいという事情があり、相手のほうが立場は強かった。このままお互いに譲らなければ、交渉が本格化しないまま決裂してしまうかもしれない。