

こうしたデジタルイノベーションの潮流によって社会や産業構造が大きく変容し、それに伴って企業の事業ドメイン、職種や仕事そのものが構造的に変化することが予想される。これは、情報や業務のデジタル化によって生み出される新しい職種・仕事がある一方で、なくなってしまう職種・仕事もあるということを意味する。
米デューク大学のキャシー・デビッドソン教授は、「2011年度に米国の小学校に入学した子どもの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就くだろう」と述べている。また、英オックスフォード大学の研究である「雇用の将来」(2013年9月)によると、今後20年のIT化の影響で、米国における702ある職業のうち、およそ半分が失われる可能性があるとしている。
1980年代のオンライン端末機の出現によってキーパンチャーという職種がなくなったことと同様の現象といえる。一方で、20年前にはWebデザイナーやオンライン・コンテンツ・キュレーターといった職種は存在しなかった。
このことは、ビジネス、顧客との関わり方、働き方などの前提そのものが変容することを意味する。企業の中でも、10年後にはなくなっている部門があったり、現時点では思いもよらない新設の部門が生まれていたりする可能性があるということでもある。
企業は、このようなデジタルイノベーションの潮流に適応していくだけでなく、自らデジタルイノベーションを起こして、ビジネス、顧客との関わり方、働き方などを変革していくことが求められるのである。
それでは、デジタルイノベーションの潮流は、企業にどのような影響を及ぼすのであろうか。まず、企業がこれまで構築し、運用してきた業務アプリケーションやその基盤となるITインフラに大きな変革が求められる。
今後の企業ITは、ビジネス環境の変化や各種イノベーションに対して、ITの展開が時間的にも柔軟性の面でも足かせとなることがないよう、あらかじめプラットフォーム化しておくことが求められよう。そのような革新的なITインフラ、アプリケーションおよびデータの基盤をデジタルビジネス・プラットフォームと呼ぶこととしよう【次ページの図3】。
デジタルビジネス・プラットフォームは、仮想化技術やクラウドサービスで構成された柔軟性の高いITインフラ、パソコンだけでなくスマートフォンやタブレット端末などのマルチデバイスへの対応、アジャイル(迅速)なアプリケーションの開発・展開、ビッグデータを含むデータの分析・活用を前提としたシステム連携・統合基盤などの要件を満たしていることが想定される。
社会・産業のデジタル化の潮流は、研究開発、モノづくり、物流、新規ビジネスモデルなど、主に事業特化型ITのシステムに大きな影響を及ぼすと考えられるが、その影響の度合いや対象となる技術は業種ごとに異なるだろう。