逃げることで自尊心を維持したい
日本でも増え続ける「自己愛型社員」
本連載「黒い心理学」では、組織の活性化を蝕む「心のダークサイド」が、いかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
前回は、性格にも能力にも一見問題はないが、やるべき仕事から逃げてしまう「マイルドなフリーライダー」の例を紹介した。そしてその原因が、「できない自分を直視できない」ことにあると指摘した。
そういった人は、自分が失敗するかもしれないような出来事から、逃げようとする。サボりや仮病など、意識的に逃げる場合もあれば、嫌な仕事を前にすると体調が悪くなるなど、無意識的に逃げる場合もある。逃げることで、自尊心を維持しているのだ。
こういった傾向が病的に強くなると、時として自己愛性パーソナリティ障害という疾患になることもある。この障害は、自己を愛するあまり、ありのままの自分を受け入れることができず、「自分はもっと優れていて素晴らしいはずだ」と思いこむ精神的疾患である。
これは極端な例ではあるが、そこまでは行かなくとも、「自分はもっと優れているはずだ」と思っている程度の人は、世の中にゴマンといるだろう。別に不思議なことではない。それが、日常生活や対人関係に支障をきたすようなレベルにまでなると、専門家が精神疾患として扱う。したがって、正常と異常の線引きは難しい。
あくまで私見だが、今の日本には自己愛性パーソナリティ障害の予備軍が、かなり多くなったように思われる。その理由については専門的になるので、ここでは省略する。だが、ひきこもり、ニート、新型うつ、「明日から本気出す」症候群、ブラック職場の社畜、などという現象の背後に共通するのは、全ての人に当てはまるのではないにせよ、この障害である可能性が高いのではないかと、筆者は考えている。
自己愛性パーソナリティ障害については、多くの研究が発表されており、様々な事例や分類が専門家によって行われているが、その中でも米国の精神科医、グレン・ギャバードの分類が面白い。
彼によると、この障害を持つ患者は、全く違う2つの行動のタイプに分類されるという。1つは「オラオラ型」で、いつも注目を浴びていないと気が済まない、批判をされるとその内容など関係なく烈火のごとく怒る、傲慢で攻撃的な上に「自分大好き」、一見他人の意見など気にする風でもない、というタイプだ。