松嶋 柳川先生と初めてお会いした博多は、もともと商人の街で、商船が出て中国、韓国など外にどんどん出て行って、日本海を利用しながら港に立ち寄ったことで栄えました。そのおかげで、いろんなものが外から入ってきて色鮮やかな文化ができました。経済を動かすとは、商売があって、商人が船に乗って出かけて、売って何かを持って帰ってくることであり、それによって文化が生まれるんですよね。

 実は地中海もそうなんです。僕の本『10皿でわかるフランス料理』でも書きましたが、昔のヘブライ人(ユダヤ人)は地中海を「海」ではなく、大陸の真ん中として見ていて、海の上を船で簡単に行き来して商業活動することで経済を生んでいました。そうした活動によっていろいろなものが交差しながら料理も生まれています。

 それともう1つ。地中海でおもしろいのは、タラです。実は地中海でタラは釣れないんですよ。けれど、地中海のフランス料理やイタリア料理ブックを調べると、地中海料理を代表する食材としてタラが出てきます。実はその背景にいたのがノルウェー人、バイキングで、彼らの航海技術レベルがとても高かったので、地中海の方に降りてきて商業をやっていたらしいんです。北の海から持ってくるので、塩漬けか干してありますが、その名残が地中海のベースにあるのに、地中海の人たちはタラを食べることに全く疑問を持たないんですよ。それは、経済を生むための商業のおかげで文化が根付いたからでしょう

やながわ・のりゆき
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。1993年、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士号取得。慶應義塾大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学研究科助教授、准教授を経て、2011年より現職。研究分野は金融契約、法と経済学。主な著書に『日本成長戦略 40歳定年制』、『法と企業行動の経済分析』、『元気と勇気が湧いてくる経済の考え方』などがある。

柳川 ちゃんとお話ししていなかったかもしれませんが、じつは僕、高校に行っていないんです。中学を出て、ブラジルに4、5年行って、大検取って、シンガポールに行って大学の通信教育課程を受けました。シンガポールには、子どもの頃と大学に行く時期に通算10年ほど住んでいました。

 それで今のお話を聞いて思い出したんですけど、今でこそシンガポールは洗練された街になりましたが、昔は華僑の集う港町で、いろんな民族が行き交って生まれた文化やもたらされる空気がありました。それが今のシンガポールのメリットを生み出していますよね。多民族をいかにマネージしていくか、どうやってみんなが暮らしていくかを模索してきた結果、グローバル化した社会にうまく溶け込んでいるのではないでしょうか。その意味で、シンガポールと博多には、共通点があると思いますね。

松嶋 共通していると思いますね。僕もシンガポールには仕事で行ったことがありますが、いろんなものを上手に取り込みながら、カスタマイズして「シンガポール発のオリジナル」「僕たちのもの」だと上手に言おうとしていると思いました。例えば、チキンライスにレモングラスを入れるのは、中国や日本ではないですよね。あれは、ああいうジメジメした気候なかで、お米と鶏の食べ方を工夫しているからで、あの国でなければ生まれないものだと思います。