国連人種差別撤廃委員会は、日本政府に対しヘイトスピーチ(憎悪表現)に、法的規制を勧告する最終見解を発表した。ヘイトスピーチは日本の安全保障、国益にも有害だ。だが、法律はひとたびつくられると、その立法趣旨と違う目的に利用されることもある。「ヘイトスピーチの禁止」と「言論の自由の確保」を両立させるために、どのような条文の法案を作るのかを考えてみたい。

難しい言論の自由との兼ね合い

 国連人種差別撤廃委員会は8月29日、日本政府に対しヘイトスピーチ(憎悪表現)に毅然と対処し、法的規制を行うよう勧告する最終見解を発表した。自民党はその前日の28日「ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム」(座長・平沢勝栄政調会長代理)の初会合を開き、法整備を含む防止策の検討を始めた。だがこの会合では国会周辺で大音量のスピーカーを使うなどの街頭宣伝活動の規制にも議論が及んだため、「原発反対活動などの規制にも使われるのでは」との疑問が出ており、「ヘイトスピーチの禁止」と「言論の自由の確保」を両立させるために、どのような条文の法案を作るのか注目される。

 日本が1995年12月に加入した人種差別撤廃条約はその第4条で「人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布、人種差別の煽動、暴力行為、それに対する資金援助」などを法律で処罰すべき犯罪であることを宣言することを締結国に求めている。だが日本政府は加入に際し「日本国憲法の下における集会、結社、及び表現の自由、その他の権利と抵触しない限度においてこれらの規定に基づく義務を履行する」と第4条については留保している。

 とは言え、東京・新大久保や大阪・鶴橋などで「韓国は敵、よって殺せ」といったプラカードを掲げ、「出て来い、殺すぞ」と叫ぶデモ行進が行われていることに対しては、安倍首相は2013年5月に参議院で「他国の人々を誹謗中傷する言動は極めて残念」と述べ、谷垣法相(当時)も「品格のある国家、という方向に真っ向から反する」と語った。国連で人種差別として論じられ、規制法制定の勧告を受けるような愚劣な行為が日本の品位をおとしめることは言うまでもない。

 それだけでなく、ヘイトスピーチは日本の安全保障、国益にも有害だ。安全保障の要諦の一つは出来る限り敵を作らないことにある。敵対関係になりかねない国をなるべく中立に近付け、できれば味方にし、友好国や中立的な国とはより親交を深めることが大事で、豊臣秀吉、徳川家康は「調略」(政治工作)にたけていたし、「天下布武」を呼号した織田信長の勢力圏の拡大も、詳しく見れば「調略」によることが少くない。