小説家や漫画家が修業時代をふり返るとき、定番のように語られるのが、出版社に持ち込みをしては門前払いを食らいつづけ、新人賞に応募しても最終選考でことごとく落選――というようなエピソードだ。
そうした狭き門をくぐり抜け、晴れて“作家”となってからも、仕事の受発注が編集者との個人対個人の関係に左右されがちで、仕事の幅が広がりにくいという悩みが出てくる。「出版社の壁」とでも呼ぶべき問題だ。
NHK連続テレビ小説『花子とアン』で描かれる出版翻訳家(文芸翻訳家)も、ペン一本で物語世界を描きだす創造的な職業のひとつ。それでいて、在宅でできる仕事であるため女性の活躍が顕著で、翻訳家デビューに憧れる女性も多い。そしてその分、競争も激しく、デビューは小説家と同じくらいに狭き門でありつづけている。
しかし、21世紀に入ってから興味深い動きが出てきた。トランネットが実施する「出版翻訳オーディション」は、年間30回ほども開催され、多くの新人を業界に送り出してきたほか、プロ翻訳家が新たな仕事を開拓するための手段としても機能している。
徒弟制度からガラス張りの公募システムへ
20代半ばで翻訳家デビューを果たした人も
トランネットの「出版翻訳オーディション」は、翻訳書を刊行したい出版社が翻訳者を直接探す代わりに同社に選考を委託するもの。同社は原書から1000ワード程度を抜き出して有料登録会員を対象にオーディションを実施、成績上位者数名を候補者として出版社に紹介するほか、応募者全員に10段階の評価付けをフィードバックする。
原文1000ワードということは、日本語訳文にすれば3000文字ほど。プロなら筆がのってくれば半日や一日でこなせる仕事量だ。その分だけ応募のハードルも低く、年に何度でも挑戦できるし、評価点で現状の実力のほどを把握し、模範訳例を参考に技を磨くこともできる。