人間、失敗してナンボ。
「除菌教育」は子どもを弱くするだけ

 私は、「人間、失敗してナンボ、もまれてナンボ」だと思っています。
 失敗体験、もまれ体験を積み重ねながら、太くて、強くて、しなやかな心が育まれていきます。

 男の子であれば、取っ組み合いのケンカも、ときにはあるでしょう。それが「いじめ」にまで発展していないのであれば、親はあまり神経質になる必要はありません。

 子どもたちは、ケンカを通して、手加減のしかたや「関係を元通りにする方法」を覚えるようになるのです。
 子どもの世界にも、「思い通りにいかないこと」がたくさんあります。我慢を強いられることも、感情を整理できずに思い悩むこともあるでしょう。

 ですが、葛藤体験やもめごとに直面するからこそ、自分が感じた痛みを「相手の立場」に置き換えてみたり、「自分のどこが間違っているのか」を自覚できるようになるのです。

 浜田康祐くん(仮名・中学3年生)は、高校受験で力を出し切れず、第一志望校に落ちてしまいます。かたや、浜田くんの親友、山本正則くん(仮名・中学3年生)は、見事合格。浜田くんは、気まずさと悔しさをにじませたまま、「花まる学習会」の卒業記念講演会にやってきました。

 私が浜田くんを出迎えると、「ほんとは、来たくなかったんですけど……」と、少しふてくされた表情を見せました。ですが、話を聞くうちに「受験に失敗した」ことから得た貴重な経験が、彼の成長の「起爆剤」となったことに、私は気がついたのです。

山本は、オレが落ちたことを知って、泣いてくれたんです。オレはいつも自分のことしか考えていなくて、勉強のコツを見つけても、『これは、絶対、誰にも教えない』と思っていました。でも山本は、いつも、オレにいろんな勉強のコツを教えてくれた。受験の神様は、山本のそういう優しさに気づいていたんでしょうね。だから山本は受かって、オレは落ちた。山本はすごいヤツです……」

……中学3年生で、ここまでのことが言えるとは、浜田くんの将来が楽しみです

 浜田くんは、思い通りにいかない状況の中で葛藤し、自分なりに整理・消化して、前を向こうとしていました。「受験に失敗した」という辛い体験の中で、「かつての自分が自己中心的であった」ことに気がつき、目が覚めたのです。