高齢出産と自閉症とエピジェネティクスの関係とは?

 もうひとつの仮説として、ASDに対してX染色体が保護的な役割を果たしている、というものがある。男性はX染色体をひとつしか持っていないが、女性はふたつ持っているので、ひとつがエピジェネティックに変化したり、稀な変異を起こしたりしても、もうひとつでその穴埋めができる、というのだ。

 現在では、ASDに遺伝子のエピジェネティックな変化が影響していることを示す証拠がそろっている。まず、よく知られるふたつの単一遺伝子の刷り込みがもたらす疾患――脆弱X症候群とレット症候群――は、どちらも自閉症およびASDと関係があることがわかっている(刷り込みとは、片方の親から受けついだ遺伝子だけを発現させるエピジェネティックな作用のこと)。

 また、少数のASD患者は第15染色体の重要な部位(長腕)に重複が認められ、ASDに似た疾患(プラダー・ウィリー症候群やアンジェルマン症候群)でも、同じ部位の重複が見られる。そして、かなり小規模な研究だが、片方だけが自閉症の3組の一卵性双生児を調べたところ、ASDの原因と見なされている遺伝子のメチル化がわずかに異なっており、自閉症者のほうは、ある遺伝子のはたらきがメチル化によって抑制され、脳内タンパク質が少なくなっていることがわかった。

 だが、自閉症者の遺伝子がエピジェネティックに変化しているのだとしたら、どんな外部要因がその原因となっているのだろう。いくつかの研究から、親と祖父母の受胎時の高齢化が関係していることが示唆された。女性も男性も、子どもを持つ年齢が上がってきているため、それが卵子と精子を、遺伝子レベルで、あるいはエピジェネティックに、不安定にしているのかもしれない。

(続く)

※本連載は、『双子の遺伝子』の一部を抜粋し、編集して構成しています。


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