失敗は失敗ではなく、成功への糧
白川敬裕(しらかわ・たかひろ)
弁護士(東京弁護士会所属)、原・白川法律事務所パートナー。 東京大学法学部卒、ラ・サール高校卒。 1975年、福岡県北九州市生まれ。大学4年在学中に司法試験に合格。24歳で裁判官に任官。民事訴訟、医療訴訟、行政訴訟、刑事訴訟等の合議事件に関わる。民事保全、民事執行、令状等も担当。 2003年、弁護士に転身。 著書に『ビジネスの法律を学べ!!』『憲法がヤバい』(共に、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、2014年7月まで「ビジネス法務」(中央経済社)にて「民法改正KEYWORD」を連載。共著に『会社の健康リスク対策は万全か』(フィスメック)がある。 NPO法人 日本融合医療研究会副理事長
伊藤:私の『夢をかなえる勉強法』の本の中で、「限界だと思ったところから本当の挑戦が始まる」という、故アイルトン・セナ(レーシングドライバー)の言葉を引用しています。
「限界だ」と思ったら、さらに、もう一歩踏み込んでみる。その勇気があれば、必ずブレイクスルーが起きるんです。
白川:本当にそのとおりですね。私も、司法試験の「択一試験」が終わったあと、「論文試験」の2ヵ月前になって、急激に論文の点数が伸びました。それも、1科目ずつ成績がよくなるというより、全教科が一度に底上げされた感じでした。
伊藤:どの世界でも、どの分野でも同じだと思いますが、スランプがあって、でもそこであきらめないで、努力を精一杯し続ける…。すると、ポーンと突き抜ける瞬間がくるんですよね。
一度でも「突き抜けた体験」のある人は、一時的な失敗が永続化しないと知っていて、そこから努力できるので、スランプが怖くなくなる。
白川:大学3年で、司法試験の「論文試験」に落ちたとき、あまりのショックに感情を抑えきれず、日比谷公園を泣きながら歩いたんです(笑)。でも、その事実を真正面から受け止めて、「失敗を失敗と思わずに、糧にしよう」と決めました。
落ちたからこそ、「暗記に頼ってはいけない。マニュアルどおりの勉強をしては身につかない。自分の頭で考えなくてはいけない」ことに気がつけた。だから失敗は後退ではなくて、一歩前進なのだ、と。
伊藤:一度でもいいから、「失敗をプラスに感じられる経験」をした人は、精神的にも強いと思います。私も白川先生と同じで、東大在学時に、司法試験に落ちるまでは、大きな挫折を経験したことがなかったんです。実は、そのことが「いちばんのコンプレックス」だった。
「東大生なんてしょせんは勉強しかできなくて、ヒョロヒョロともやしみたいに育てられて、すぐにポキンと折れるもろい奴らだ」と思われているんじゃないか、って(笑)。
でもそれを、自分の経験では、否定できなかったんです。どん底から這い上がった経験もしていないし、「たしかにオレって、頭でっかちな人間かもな」と自覚していましたから…。
白川:私も、同じです。6月に出版した『本物の勉強法』の中でも書いたのですが、私の世代(1975年生まれ)は、「偏差値教育の弊害」というのがマスコミで問われた世代なんです。「偏差値という単一の基準で人を括ると、個性が失われる」といった批判が、マスコミでなされました。
私は「自分こそが偏差値教育の中で育った人間なのかも?」とコンプレックスを感じていて、自分自身を否定的に見ていたことがあるんです。
伊藤:わかります。「学校の勉強ができるだけなんでしょ!」という見方をされる。それが私も、いちばんのコンプレックスでしたね。だから、私自身も「司法試験での失敗」は、いい経験になったんです。小さな失敗かもしれないけれど、それを乗り越えたことで、強かさが身についたと思いますからね。