忘れるべき3つの神話

 起業家について、あるいは起業家に求められる資質については多くの思い違いがあります。ここで、一般に誤解されている「3つの神話」について紹介しましょう。

 第1に、起業は1人で行なうものだ、という誤解です。起業家は孤高のヒーローのように語られがちですが、よく調べてみるとそうでないことがわかってきます。起業はチームによって行なわれ、チームが大きいほど成功の確率が高まります。創業仲間が多いほど、起業はよりうまくいくのです(註1)。

 第2に、起業家はみなカリスマ性を備え、それが成功のカギとなっている、という誤解です。カリスマ性は短期的には役立ちますが、長続きはしないものです。カリスマ性より大事なのは、意思伝達、人材採用、販売を効果的に行なうことだと示す調査結果もあります。

 第3に、起業家になれるかどうかは生まれ持った資質によるもので、成功は遺伝子によって決まる、という誤解です。そんな遺伝子は発見されていないし、これからも見つからないでしょう。華やかで大胆な人が起業家として成功する、とも信じられているようですが、それは見当違いです。一方、人材管理や販売スキル、製品コンセプトとその展開など、成功確率を高めるスキルは確かにあります。こうしたスキルは、少数の幸運な人だけが持っているのではなく、学んで身につけることが可能です。新しい考え方を受け入れ、学んでいくのと同じように、起業家精神と呼ばれる手腕やスピリットも、学習可能な行動とプロセスなのです。

 その証拠は探すまでもありません。MITの学生たちは次々と起業しています。その数は、2006年時点で継続しているものだけでも2万5000社。毎年900社にのぼる新企業が設立されています。そうした企業で働く人びとはなんと300万人、年間の総売上は2兆ドルにのぼります。つまり、MIT卒業生が設立した事業を総計すると、世界第11位の企業になるのです。(註2)

 しかし、これほどMITの卒業生の成功率が高いのも、単にもともと賢いから、とか、最先端技術を知っているから、ではないのです。その理由を次回述べていきましょう。

(註1) Edward B. Roberts, Entrepreneurs in High Technology: Lessons from MIT and Beyond (New York: Oxford University Press,1991), 258.

(註2) Edward B. Roberts and Charles E. Eesley, “Entrepreneurial Impact: The Role of MIT—An Updated Report,” Foundations and Trends® in Entrepreneurship 7, nos. 1–2 (2011): 1–149. http://dx.doi.org/10.1561/0300000030.