米国戦後最悪の金融不安を引き起こしたサブプライムローン問題は危険水域を脱し、金融機関の損失処理は最終段階に入った。

 4月11日、米国ワシントンで開かれたG7は鳩首会議さながらで、有効な危機対応策を打ち出せず、金融秩序回復の道のりは遠いとしか思えなかった。

 ドイツ銀行のアッカーマンCEOが居並ぶ各国の財務相たちに、損失拡大の一因となっている時価会計の適用を一時停止する緊急避難措置(サーキット・ブレイカー)を求めたほど、欧米の巨大金融機関は動揺を隠していなかった。

 だが、それから2ヵ月も経たない現在、もはや金融危機を口にするものはいない。じわじわと株価は上昇し始めた。景気の先行きには暗い影を投げかけているが、誰しもがサブプライム問題は最悪期を抜け出したと考えている。

 それはなぜだろうか。2ヵ月の間に、何がどう変化したのだろうか。

 答えは、ポールソン米財務長官が繰り返し強調し続けた「最優先で取り組むべき課題は、損失の確定と資本調達だ」という発言にある。金融を少しでも知る者にとってはあまりに当たり前の指摘だろう。だが、未曾有の危機に際して実行してのける官民の力量は、決して「当たり前」ではない。付け加えれば、日本のメディアや識者が声高に叫んだ公的資金の資本注入など、彼は一切口にしなかった。

 今回の金融不安の根をひと言で表現すれば、「証券化商品市場が突然消滅した」ことにある。

 激しい信用収縮による資金調達の急激な悪化によって、買い手がいっせいに消えた。サブプライム住宅ローン債権を組み入れた証券化商品に止まらず、あらゆる証券化商品の売買が急減、スプレッドは急上昇、価格は暴落し続けた。

 それは、「市場が消滅した」と表現してもいいほどの底値が見えない急落だった。市場が大きくオーバーシュートしているときに保有する証券化商品の時価評価を行えば、その商品の本来的価値(ファンダメンタルバリュー)から大きく乖離、低下し、場合によってはゼロに近づいてしまう。あまりの異常事態に、アッカーマン・ドイツ銀行CEOが思わず緊急避難措置を求めたのも無理はない。

 だが、市場はいつまでも消えたままではない。価格も果てしなく落ち続けるわけではない。いつか、必ず反転する。ここで、「損失の確定と資本調達」というポールソン米財務長官の言葉を思い出してほしい。