
トランプ政権の強硬な関税政策が市場に動揺をもたらし、株安・債券安・ドル安の「トリプル安」を誘発した。米中の一時休戦にもかかわらず、ドルの基軸通貨としての信頼は揺らぎ始め、各国の外貨準備戦略に変化が生じている。今後の市場安定のカギは、米国の対応と通貨体制維持への信念にかかっている。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
市場は落ち着き取り戻すも
火種は消えてはいない
トランプ政権による相互関税政策の発表をきっかけに大荒れとなったグローバル市場だったが、米中が90日間の関税引き下げに合意したことで落ち着きを取り戻しつつある。
米中の通商交渉が容易に最終合意に向かうとは考え難く、今後も波乱の展開に逆戻りする可能性は排除できないが、ただ、米国債利回りの上昇と米株安、そしてドル安がシンクロするトリプル安のような動きは生じ難くなっており、市場参加者も一安心といったところであろう。
トランプ政権の関税政策が、結果的に米国企業の負担を高めることを介して米国経済が減速するとの懸念が高まったのは当然ともいえ、かかるなか、米国の株価が下落したのも自然な流れであろう。
ただ、市場参加者の懸念をより一層高めたのが同時に進んだドル安であり、それは経常赤字国である米国からの資金流出を想起させた。
今次、対話のテーブルに着いた形の中国ではあるが、ただ、これまで通り「米国は一方的な関税を撤回する準備を進める必要がある」(中国商務省)とのスタンスは崩しておらず、むしろ、米国による関税賦課を甘受しつつ、米国に代わる輸出仕向け先を模索するような動きも続けている。
グローバルサウスやアジアの同胞との関係を強化する習近平政権の動きは、既に全体の15%以下となった米国向けの輸出をさらに減らし、欧州も巻き込んだ新たな自由貿易圏の構築を模索するようにも見えた。
ここで中国が欧州や多くの新興国を巻き込んで、対米包囲網を敷いた場合、いずれ世界の貿易決済通貨がドルからユーロ、あるいは人民元にシフトするとの思惑も強まる。
次ページでは、今後のドル基軸体制の行方、それに絡む投資家の対米投資動向について検証する。