ブランディングとイノベーションが変化した時
やや個人的な経験からお話をしたい。
2000年、私はMIT(マサチューセッツ工科大学)のMBA課程に在籍していた。当時、日本企業は一部の自動車メーカー以外、凋落が著しい時期であったが、創業間もないグーグルが急速に利用者を拡大し、復帰したジョブズが開発した斬新なデザインのiMacが発売され、MITのオフィスでも広く使われるといった印象的な出来事が起きていた。企業経営者からは、「デザインシンキング」の重要性が頻繁に語られ始めていた。
理論的にも、B.J.パインとJ.H.ギルモアによる「経験経済」やクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の経営的意味合いがビジネススクールでも議論されていた。MITでも、エリック・フォン・ヒッペルがオープンソースソフトウェアやオープンデザインを研究し、「イノベーションの民主化」を提唱していた。
そうした観察から、その時期はマーケティングやイノベーションの考え方の変曲点の一つとなる時期なのではないか…と強く感じていたのだが、その時期まさに、2000年、インターブランドの「ベスト・グローバル・ブランド」ランキングが作成・公開されている。ファイナンス理論を駆使しながら、膨大なデータを分析し、情緒的ベネフィットやユーザーのブランド選択行動を数値に転換するブランドの捉え方に、私自身、強い衝撃を受けた。
実際、ちょうどその頃から、あらゆる市場で、ブランドの捉え方が大きく変化している。広告によって形成される短期的イメージではなく、創造・蓄積・管理されるべき無形資産であり、企業のあらゆる具体的活動がブランドにつながるという考え方が浸透し始めている。
ダニエル・ピンクの「ハイコンセプト」は、この時期以降のユーザーの変化をうまく分析している。ピンクが分析したように、1)機能だけでなく「デザイン」、2)議論よりは「物語」、3)個別よりも「全体の調和」、4)論理だけではなく「共感」、5)まじめだけでなく「遊び心」、6)モノよりも「生きがい」、といった情緒的経験の価値の重要性は高まり続けている。そうした、ユーザーの期待値の不連続なレベルでの高まりは、ブランディング活動の重要性を高め続けてきた。
しかし、現在、それに留まらない大きな変化がある。