1月26日召集の通常国会に提出され、2016年春の施行が目標となっている改正労働基準法。目玉とも言える「ホワイトカラー・エグゼンプション」は年収1075万円以上の専門職について、週40時間を基本とする労働時間規制から外す制度だ。過重労働への懸念も言われているが、働き方を巡る議論の本質はどこにあるのか。リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
長時間労働と成果に相関関係はなし
無駄に長く働く理由はどこにある?
――安倍政権が進める労働制度改革の目玉ともいえる「ホワイトカラー・エグゼンプション」を含む、労働基準法の改正案が、いよいよ26日から召集される通常国会に提出されます。
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上 げ、所長に就任。2010年~2012年内閣府参与を兼任(菅内閣、野田内閣)。2011年専門役員就任。2012年人材サービス産業協議会理事就任。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論。
私自身は、ホワイトカラー・エグゼンプションにあまり意味はないと考えています。そもそも、この議論は「長時間働き過ぎだ」という問題意識から出発したものです。なのに、「なぜ長時間働いてしまうのか?」という大元の問題を十分に議論することなく、いきなり制度改正に話がずれたと感じています。
実は、長時間労働をすれば企業の利益率が上がるかというと、まったくそうではありません。これは、実際に多くの企業を調査した結果、明らかになった事実です。個人も同じ。長時間働くことと、成果には何の相関関係もないのです。
ではなぜ、長時間労働をしてしまうのか?理由は2つあると思っています。1つは「がんばっている」ことのアピールです。これは日本企業に特徴的なのですが、昇進・昇格は周囲の評判で決まることが大半です。だから周囲の目を気にして、評判作りのために長く働くわけです。もう1つの理由は、長時間働けば残業代をたくさんもらえるからです。これでは、生産性を改善するメリットがないですよね。
無駄に長時間働くことを是とする価値観を改め、代わりにスマートワーク、つまり働いた時間ではなく生産性を追求する方向に変えて行かなければなりません。そして、スマートワークは、国や企業の制度改革ありきでは浸透しない。もちろん、制度改革は後押しとして必要ですが、まずは個人の意識を変えて行かなければならないと思っています。