しかも両行とも、自国の中間層における賃金の伸びが強くなく、インフレが高まる恐れもないため、政策金利の引き上げは年後半以降に後ずれしそうだ。日本銀行の追加緩和はすぐではないと思われるが、年間80兆円ペースの国債保有増加は続く。よって、世界的にはトップ1%と99%の格差が広がりやすい環境がしばらく続くだろう。

 ところで、先進国の中央銀行が実施してきたQEの「陰の狙い」は通貨安誘導にあるといえる。1970年代以降、経済規模の大きい先進国の間では為替レートを市場に委ねることがルールとされた。市場の急変動を和らげるための為替市場介入は許容されても、為替レートの水準を変えるための介入はタブーとされてきた。

 そこで金融危機以降はFRBとBOEが率先して金融政策の“皮”をかぶりながら、事実上、自国通貨安誘導を狙うQEを行ってきた。その効果もあって彼らは先に利上げへと向かえそうだったが、昨秋以降の円とユーロの急落でドルとポンドは高くなってきた。

 キャタピラー、プロクター&ギャンブル、ファイザー、ユナイテッド・テクノロジーズなどの米企業は一斉にドル高による収益悪化を叫びだした。14年10月の日銀による追加緩和と今回のECBのQE導入で、“通貨戦争”の新たな局面が始まってきたといえる。

 次に米英の中央銀行が緩和方向にかじを切るときが来たら、先進国間でさらに激しい“通貨戦争”が起きる恐れがある。上述のような資産・所得格差の拡大を避けるためにも、やみくもなQE競争が起きないような国際的な通貨の枠組みを議論する必要があるだろう。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)