うつ病など、心を病んでいる社員の記事が取り上げられるとき、私が目を通す限りでは、その大半が「長時間労働や成果主義などの犠牲者」という捉え方をされているように見える。これは、ある一面を取り上げてはいるのかもしれない。しかし、そこまで言い切る根拠が曖昧であるように思える報道も少なくない。

 さらに、そのような心を病んでいる社員の同僚らの声を拾い上げ、丹念に盛り込んだ記事は相当に少ない。私が会社員をしていた頃の経験で言えば、同じ職場にいて同僚らが何も感じていないことはあり得ない。

 黒い職場の因子は、ここにもある。タテマエでは「そうした社員を支えよう」と唱えている人が、実はその負担を立場の弱い周囲の社員に押し付けている場合がある。ここには、「苦しい」と声を出すことができない、本当の弱者がいる。今回は、そのような職場に潜入した事例を紹介したい。


「職場復帰なんてしなくていい」
うつ社員に向けられる心ない批判

 昨年秋、筆者の元へ一通のメールが届いた。

「吉田さん、お騒がせしました。先日、職場復帰しました。(中略)この会社は、温かいです。みんなが、私の仕事をしてくれていたようです。また、よろしくお願いします」

 メールの送り主は、大手出版社(正社員数550人)の雑誌編集部に勤務する、40代半ばの編集者である。この男性は数年前からうつを繰り返し発症し、半年近く休業をしていた。その半年の間、他の編集者が男性の仕事を肩代わりしていたようだ。そのことをメールに書いていた。

 私は今なお、返信をしていない。正確に言えば、返信する気になれない。実は、裏側の事情を知っているからだ。男性と同じ編集部にいる編集者たち数人は、私と話す場では、彼についてこう漏らしていた。