急増中なのはマタハラだけではない
同僚の子育てに周囲が悩むケースも

 今回は、育児休業明けの女性社員のために疲れ切って退職した女性(36歳)を取材した。現在は、大手メガバンクのグループ系の会社(社員数800人)の営業企画や広報などの仕事に携わる。間もなく、この10月からマネジャーに昇格する。本記事では、この女性をAさんとする。

 現在、セクハラ、パワハラに次ぐ第三のハラスメントとして、「マタハラ」(マタニティ・ハラスメント)が問題視されている。働く女性が出産や子育てに関して職場で受ける肉体的・精神的なハラスメント(嫌がらせ)のことだ。中には、母性保護を顧みない激務を課せられたり、妊娠・出産を上司に報告しただけで退職勧奨が行われるような悪質なケースもあるという。働く女性の人権を踏みにじるマタハラは、断じて許されるべきものではない。

 しかし一方で、あたかも出産・子育てをする多くの女性社員が職場で一方的に不利益を被っているかのように感じる報道が少なからずあることについては、違和感を覚える。専門家の中には、産休・育休を取得する女性社員は、「虐げられた悲惨な存在」とでも言わんばかりの発言を行う者もいるが、筆者にはそれは「1960年代型の認識」にしか見えない。

 大企業はともかく、社員数30~300人ほどの中小企業の現場を取材すると、実は報道とは正反対の現実が見えて来る。むしろ、出産・子育てをする女性社員をフォローしなければならない周囲の社員たちが、過剰な業務負担を強いられ、大変な思いをしているケースのほうがはるかに多いのだ。

 一方で、「自分は子育て中だから、皆にフォローしてもらうのは当たり前」と思っているかのように振る舞うという、一部の女性社員に対する不満も耳にすることがある。

 識者やメディアは、このような現実を見据えることをあえて避けているか、公にしようとしていないようにも思える。