上場企業で、前代見聞の「社内融資」の事実が発覚したという。その会社の名は、株式会社アトリウム。大手ノンバンク・クレディセゾンの子会社で、東証一部に上場している不動産会社である。社長が金融機関から借りていた約20億円もの巨額の借入金を会社に肩代わりさせたうえ、そのうち11億円を“貸倒引当金”として中間決算で損失計上していたというのだ。
そもそもアトリウム社長・高橋剛毅氏は、なぜそのような巨額な借金をしていたのか――。それは、ストックオプション(自社株購入権)で生じた税金の支払いのためである。
高橋社長は、同社の規定に伴い、04年にストックオプションの権利を付与された。その後、06年、07年の2回にわたってその権利を行使し、計108万株の自社株を取得。高橋社長は市場に3万株だけ売却したものの、残る105万株はそのまま保有していた。その含み益に対して、所得税と住民税が約20億円加算されてしまったのである。しかしその時は、金融機関から借り入れを行ない、税金はすべて支払っている。
そして08年4月、金融機関からの借入金の返済期限が来た。高橋社長は、自己資金がなかったため、保有している自社株を担保に会社から約20億円を社内融資してもらい、それを借入金の返済に充てたというのである。
しかし、その融資から半年あまりしか経っていない08年11月、中間決算(08年3~8月期)において、11億円もの巨額を“貸倒れ”として損失計上したのである。その理由は明白。社長が担保として差し入れていた自社株が、株価低迷によって大幅な評価損を起こしたため、会社は損失処理せざるを得なくなったのである。
高橋社長は、自分の借金を会社に“肩代わり”させただけでなく、担保価値の下落により、会社に巨額の損失処理を余儀なくさせたことになる。これは上場企業の社長としてあるまじき行為である。自社株下落リスクに無頓着な経営者であるといわざるを得ない。
担保評価100%!?
驚くべき「お手盛り融資」の中身
しかしそもそもなぜ、このようなデタラメなお手盛り融資がまかり通ってしまったのだろう。デタラメというには理由がある、それはその融資条件があまりにお手盛りだったからである。詳しく見ていこう。
前述した通り、高橋社長は自社株を担保設定し、社内融資を受けている。驚くのはその担保評価である。担保価値を“時価の100%”で評価していたのだ。普通、株を担保設定する場合、時価100%というのはあり得ない。通常は株価の下落リスクを考慮し、時価相当額の70%程度、どんなに多くても80%程度の掛け目で評価するものである。
さらにその際の金利は、「会社の調達金利+1%未満」という好条件。ちなみに返済期限は13年という長期であり、その後の返済金額を見る限り、当初の返済額を少なくして最終弁済期近くに多くの弁済を行う「テール・ヘビー」なものであったことが伺われる。
肩代わり融資がされた08年4月というのは、すでに不動産バブルは崩壊しており、不動産関連各社の株価は軒並み下落をしていた時期である。実際に、同社の株価も、高橋社長がストックオプション権を行使した時(06年~07年)には3000円以上の値を付けていたが、この肩代わり融資時(08年4月)には、1000~1500円程度にまで大きく値を下げている。