新規プロジェクトは苦しく矛盾にみちている

 ところが、新規プロジェクトの成功法則は、上記のような対応を懐疑的に見る。
企業内で事業を起こすためのバイブルとして、かつて多くの人に読まれた「企業内起業家」には、このような記述がある。

「企業内起業家にとって、企業内起業活動を前提においてつくられなかった管理機構の干渉ほどうるさいものは、おそらくないだろう。ときにはうるさいだけではすまなくなることがある。管理機構のおかげで、事業の死活を制するタイムリーな行動をとることができなくなるからだ」

「大企業の多くの新事業では、管理体制の下でがんじがらめにされていて、ほとんど機能することができなくなっているのである。企業内起業活動が成功するためには、企業内起業家に決定権と行動を起こす権限を与えなければならない」(*2)

 実際に、ソニーの「プレイステーション」は、能力は高いが軋轢を生み過ぎる久夛良木氏を、大賀会長の命により丸山茂雄氏が社長を務めるソニー・ミュージックエンタテインメントのゲーム部門に物理的にも移動させ、本社の影響力から逃れて自由に活動させたことが成功に大きく寄与したと言われる(*3)

 NTTドコモの「i-mode」も、かつて情報誌の編集長をしていたという異色中の異色人材である松永真理氏の採用とともに始まり、夏野剛氏などを含む外人部隊を結成。電電公社の時代には、まるでお付き合いの無かった多様な人材をブレストに呼び自由に議論することからコンセプト設計が進んでいった(*4)

 いずれにしても本業カルチャーと干渉からの隔離が成功したケースである。

 既存事業の人材は新しい試みを行っている人のことを「いい気なものだ」と思いがちだ。しかし新規プロジェクトの担当者は実際には常に苦しいのである。革新的な試みにおいては、経験則はほとんど通用しないから、何が「生き金」になるかはわからず、お金と労力をドブに捨てるなど毎日のことである。スペックを明確にして合い見積りとるなどというような悠長なことはやっていられないから、一緒にプロジェクトを推進してくれる仲間の企業に発注する。合い見積りが嫌とか言う前に、そもそもあらゆることが流動的すぎて、スペックすら事前には確定できないというのが本当のところだ。一緒に取り組んでくれている企業に対しては、いろいろなアイデアをたくさん出してもらえることが最大の価値だと誰もが認識しているのだが、それをコンサルティング契約といった形にするのは、本社がOKするはずもない。そこで何かを納入してもらう際に、その分を上乗せして高めの額で取引をするのだ(*5)

(*2) 企業内起業家 ギフォード・ピンチョー著 (講談社文庫) 354ページ 358ページ
(*3)久多良木健のプレステ革命 麻倉怜士著 ワック出版
(*4)Iモード事件 松永真理著 角川書店
(*5)新規事業立ち上げの際の担当者が追い込まれる状況についてはこちらが詳しい。『大企業におけるビジネスプロデューサーの創造』秋山進 国際大学GLOCOM