>>前編より続きます
その後小酒部さんは、労働局の相談窓口に出向いた。彼女と会社側との意見の相違は、労働審判に発展した。「どこかもっと早い時点で、『行き違いがあったね』と謝ってほしかった」というのが、小酒部さんの本音だ。
マタハラの被害は埋もれやすい。なぜなら、女性が妊娠中であれば余計なストレスを抱えたくない気持ちが働き、泣き寝入りになりがちで、流産してしまえばそのショックで闘う気力を失うケースが多いからだ。
労働審判などにより解決金が得られると、企業側からはバーターとして「口外禁止」の誓約書を交わされる。その解決金も、給与の半年分が相場になっており、「失業」の対価としては不十分だ。不法行為が漫然と行われていても、厚生労働省による企業名の公表は今まで1社たりとも実施されていない。
それでも、「そのままでいれば、マタハラもなかったことにされる。会社との間では“自己都合退職”と強要されたものを“会社都合退職”に正してもらえるなど、労働審判をする意味はある」(小酒部さん)という。
職場で受けたマタハラによって信頼関係はなくなり、小酒部さんは2013年12月末で退職、現在はマタハラNetの活動に力を注いでいる。全国から相談が寄せられ、2014年12月時点では相談件数が71件となった。そのなかで、切迫流産から流産に移行したのは7件で、約10%を占めた。妊娠の報告をしてから不利益な取り扱いを受けたという相談が最も多くて約56%に上り、「育児休業切り」で職を失うケースも約10%と10人に1人という多さだ。
小酒部さんは「切迫流産になったり、つわりが酷いなど妊娠の経過が順調でない人ほど、マタハラのターゲットにされやすい。無理をして流産すれば、仕事も子どもも失うことになる。それはひどすぎる」と話す。
3月8日の国際女性デーにちなんで、小酒部さんは、マタハラNetの活動が評価されて米国の国務省から日本人で初の「国際勇気ある女性賞」を受賞した。世界的にも、日本のマタハラが問題視されているということになる。
第1子の出産で無職になる女性は6~7割
職場流産とマタハラの根深い因果関係
流産の多くは染色体の異常が原因で避けられないものだが、このような働き方の問題が原因と見られる流産について筆者は「職場流産」と呼び、問題視してきた。妊娠を機に仕事を辞めざるを得なくなる女性は多く、第1子の出産を機に無職になる女性の割合は6~7割で、この30年そのトレンドは変わらない。男女雇用機会均等法ができてから今年で30年となる。また、国連で3月8日に国際女性デーが実施されてから今年で40年という記念すべき年であるが、まるで時代が逆戻りするかのような職場環境だ。