経済産業省は昨年、「攻めのIT経営銘柄」の選定に動き出した。そもそも、戦略的なIT投資とは、どのような哲学でなされるべきなのだろうか?グローバルトップ企業のスタンスから考えてみたい。

IT投資はコスト削減のため?
戦略的投資とは何か

 今回の経済産業省のアナウンスメントは、IT投資をより戦略的な方向にするように、国を挙げて取り組むという姿勢を示したものだ。実際、各業界で「グローバルトップ」と呼ばれる企業の多くは、IT投資額が非常に大きいことで知られている。自社サイトひとつ取ってみても、全世界で一元管理し、ブランドイメージ戦略に有効活用している。

宮本認(みやもと・みとむ)
ガートナー コンサルティング部門 シニア・マネージング・パートナー

 IT投資といえば、基幹系システムが一番に思い浮かぶという人も多いかもしれない。これは、いわゆる伝票や台帳管理、つまり電卓とソロバンの世界だ。むろん、企業運営には欠かせない機能だし、システムに巨額のカネもかかる。

 こうした基幹系システムを、より高機能かつ低コストのものにリプレースすることを“戦略”と呼ぶ会社も少なくないが、今回取り上げる「戦略的投資」は、企業の売り上げや利益に直結する投資のことだ。

 グローバルトップ企業のIT投資を見ていると、いくつかの共通する戦略があることが分かる。まずは投資金額。多くのトップ企業は売上高も伸びているが、IT投資も増えている。一方、減っているのは人件費だ。

 また、毎年コンスタントに投資をしているのも特徴的だ。実はベンダー側にとっても、これは大きなメリットがある。需要が読めるから、生産性を上げることができるのだ。一気に巨額投資をすると、人手不足から経験の浅いエンジニアも入れざるを得ないなど、品質に問題が起きることもある。

 長期的なIT投資スタンスの根底にあるものは、「将来、自社をどうしたいのか?」というビジョンだ。たとえば、消費財メーカーなら、1つのブランドを世界中で売るために、高いブランドイメージを全世界共通で構築しつつ、一部ローカライズも加える、というような目標を持っている。この目標を達成すべく、数年をかけてIT投資をしていくのだ。