東日本大震災・福島第一原発事故から4年を迎えた。この連載では、震災・原発事故発生時に「被災者の方々には不謹慎な言い方だが、震災は日本人がこれまで目を背けてきた問題を直視させるきっかけになる」と論じた(第6回を参照のこと)。今回は、震災から4年の節目を機に震災関係の論考を振り返り、今の日本を考える。

「電力を節約しても豊かな国」がある

 4年前の論考の中心は、次の通りまとめられる。

 『震災・原発事故が起こった直後、東京に滞在した。午後6時ごろにはデパートが閉店し、街灯も半分くらい消えて街は暗かった。まさに非常事態だったが、これがロンドンだったら普段通りだとも思った。欧州の都市の夜の明るさは、節電中の東京とほぼ同じだった。また、欧州ではロンドンのような主要都市でも24時間営業のコンビニやファミレスのような店は少ないし、地方都市では午後11時頃にはなにもやってない街も多い。節電中の東京は、これに似ていた。

 しかし、欧州は世界の名目GDPで5ヵ国(ドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン)、一人あたりの名目GDPで7ヵ国(ルクセンブルク、ノルウェー、スイス、デンマーク、アイルランド、オランダ、オーストリア)がベスト10入りしており、日本よりも「貧しい」わけではない。日常生活では、確かに多少サービスは不便だ。でも、みんながおおらかに少しずつ我慢しながら、「豊か」に暮らしていたのだ。逆に日本では、24時間営業など、完璧なサービスを提供して便利な社会のはずだが、ブラック企業が横行し、過労死や自殺者が多い。豊かさも幸せも感じられない。

 日本では常に経済成長が至上命令となってきた。しかし、震災・原発事故で物流機能が致命的なダメージを受けて部品の調達が困難となった上に、電力供給が落ちていて工場再開のメドが立たない。新規の原発建設は、政治的に極めて難しくなる。現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態もあり得るだろう。日本の総発電量は長期に渡って低下する懸念がある。

 こんな状況で、以前の日本経済にそう簡単に戻れないだろう。それならば、以前に戻れなくても、もう少し豊かさを感じられる社会のあり方を考えてもいいのではないか』(第6回を参照のこと)。

 4年前、この中心的な問題意識に基づき、さまざまな角度から震災・原発事故後の日本社会の姿を考えたのである。