フランス人の国民性もプラスに作用

 しかし、これら戦略を進めていっても、新参者の日本が本場のマーケットに入り込むことは容易ではない。
 ところがフランスの場合、国民性と店舗形態が、日本産ウイスキーにとってプラスに働く結果となった。

 フランス人は、日本人のように流行に趣向が流されるというよりは、周囲を気にせず、それぞれ好きなものを好きなように楽しむ人が多い。店舗も日本ほどチェーン店は多くなく、独立系リカーショップが点在している。各店主が自らの舌で選んだ商品を置き、店主の趣味に合わせて客がつく。

 パリは歴史的にも様々なものが集まってきた場所である。これはウイスキーに限らず芸術などにも言えるのだが、もし聞き慣れない物や事があったとしても、まずは試し、良いと感じれば世間やブランドなどに流されず受け入れる土壌がある。つまり、良いものを作っていれば、門前払いされずに受け入れられる。この風土に日本産ウイスキーがはまった。

 受け入れられたウイスキーは、今やフランス人によって独自のペースで楽しまれている。パリのフレンチレストランに聞き込んだところ、日本のウイスキーをストレートでアペリティフとして飲む人が多いというのだ。食前酒としてウイスキーを頼んだ後は、食事に合わせワインへ移っていく。

ル・ボン・マルシェ・リヴ・ゴーシュで、日本産ウイスキーは商品棚中央のもっとも目に付きやすい位置に置かれている

食中酒として楽しむ日本産ウイスキー

 和食との組み合わせも認知されつつある。マレ地区のお好み焼き屋「Okomusu(オコムス)」。ここでも日本産ウイスキーの売り上げが、以前と比べ2倍になった。飲み方としては、こちらも1杯目をストレートで楽しみ、2杯目からはソーダ割りやビールなどに移る。
 お好み焼きとソーダ割りという組み合わせは、日本ではごく普通のペアリングであるものの、じつは「ソーダ割り」という文化は欧州では珍しい。ウイスキーは、主にストレートで飲まれるからだ。
 ただフランスでは、前述した理由から、飲み方にトラディショナルな傾向が強い英国と比べ、異なるものへの受容性は高く、身近な飲み方でなくとも受け入れる客は多いという。

パリで、お好み焼きとウイスキーの組み合わせは珍しくなくなった(「Okomusu」)

 食事とウイスキーの関係性は、日本産ウイスキーのフランスにおける次段階も示唆している。例えばニッカは、パリ市内にある有名ブーランジェリー「デュ・パン・デジデ」と協同、ウイスキーを使ったパンを考案したり、ショコラトリー「ジャック・デュナン」とウイスキーを用いたデザートを作るなど、イベント時に食と積極的にコラボレーションしてきた。
 そして将来的には、食との繋がりを通じ、フレンチのコースに合わせたワインのようなウイスキーの飲み方の提案をフランスで狙っている。

 ウイスキー単体で勝負に出るだけではなく、食全体とのペアリングを探っていくことにより、フランスにおける日本産ウイスキーのポテンシャルをさらに高めていく。食文化の幅が広いフランスで上がった評価と、磨いた応用性を他国にも適用していくことで、一層の価値を見出す。ブームから定番へ、日本産ウイスキーは今、躍進と変化という過渡期の真っ只中なのだ。