国内の給湯器メーカーで最大手のノーリツは、創業者が「お風呂は人を幸せにする」という信念を持って設立した会社で、この分野で新製品を開発することを通じて成長してきた。だが、2000年以降は業績が頭打ちになり、停滞ムードに包まれる。遂には、08年に米国の投資ファンドから敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられた。その渦中に身を置き、翌09年からノーリツを率いる國井総一郎社長に、自ら手掛けた過去の会社再建などを含めてじっくり話を聞いた。
――2014年12月、4年前に新規参入したばかりの「家庭用太陽光発電システム」の生産・販売体制の規模縮小(事実上の撤退)を発表しました。当初は、主力である「家庭用給湯器」と組み合わせるなど新しい成長ドライバーとして期待されていたはずですが、この早さで撤退した背景には何があったのですか。
確かに、家庭用太陽光システムは、11年、12年、13年とノーリツの成長ドライバーになってくれました。しかし、参入したメーカーが多く、競争の激化で販売価格が想定以上に下落したことや、自分たちではセル(太陽電池)などの中核部品を製造していなかったことから急激な円安の影響で調達コストが上昇しました。価格競争では今後も厳しい事業環境が続くと判断し、15年末を目途に家庭用太陽光発電システムの生産・販売を中止することにしました。
――いったん始めたことを途中で止めるのは、創業64年のノーリツの歴史でも初めてだそうですが、どうしてそのような決断に至ったのですか。
もちろん、社内には反対意見もありました。もともと、将来を見据えて主力の「家庭用給湯器」と組み合わせる発電システムとして参入した経緯もあり、一部の幹部からは「間違った経営判断だ」という声も上がりました。私も技術系の人間ですから、一生懸命がんばってくれた人たちの顔が浮かびます。
しかし、既存のマンパワーの中で、太陽光発電システムに経営資源を割いた結果、14年になって大黒柱の家庭用給湯器のほうがおろそかになり、シェアが下がり始めるなど事業の存立基盤が“揺らいで”きました。過去のように中途半端なままズルズル続けてしまうと、最終的に会社の経営全体に大きな影響を及ぼすことになります。そこで、15年は、私たちの基盤である「温水・厨房」などの“湯まわり生活設備機器”に経営資源を集中することにしました。
社外の人からも、「撤退はちょっと早過ぎるのでは?」といわれますが、今後も厳しい事業環境が続く中で、最終的にはシャープや京セラのようなメガソーラーとは勝負にならない(メジャーにはなれない)という現実もあり、途中で止めるという決断に至りました。ただし、生産・販売は中止しますが、すでに設置されている太陽光発電システムのアフターサービスは続けていきます。