必需品の戦略は
「同業種から顧客を奪うオペレーション」

オペレーションベース戦略を執るのがふさわしい必需品の代表である生鮮食品を例にとって考えてみると、その市場規模は、「〔人口〕×〔 一人の胃袋が消費する量〕×〔商品単価〕」で計算が可能だ。だから、ある生鮮食品の売り上げを増やそうと思えば他の競争相手の売上から奪う必要がある。

 従って、【必需品の売上規模】を表す公式は【売上=市場規模×シェア】となる。

 これは、GMS (総合スーパー)などの業態では必須の考え方だ。コモディティ化した商品を販売するためには「競争相手より、より安く販売する」か「競争相手より便利に販売する」のいずれかの打ち手を選択する必要がある。そのため、イトーヨーカドーやイオンなど日本を代表するGMSは、可能な限り会社のコストを低減し、商品単価を下げたりネットスーパー(インターネットで生鮮食品等が買えるサービス)といったオペレーションで競争している。

 ところが嗜好品は複雑だ。全くこの公式が当てはまらないのだ。

嗜好品の戦略は
「異業種から顧客を奪う価値づくり」

 以前、私は、回転寿司チェーンのコンサルティングをしたとき、寿司の市場規模を調べたことがある。回転寿司のような業界は、「食事」という面では必需品だが、ちょっと贅沢をして外に食べに行くという意味では嗜好品ともいえる。両者の要素を併せ持つ業界だ。

 当時、回転寿司チェーンは非常に高い伸びを示していたが、寿司全体の市場規模は減っていた。これは、「回転寿司」という寿司ビジネスが、「立ち寿司」という高級な寿司の市場から消費を奪っていったためである。しかし、よく調べてみると、回転寿司のような低価格チェーンの参入による「寿司の民主化」によって、寿司の消費量そのものは増えていた。

 一方、嗜好品の代表格とも言えるアパレル企業のコンサルティングをしたときのことだ。売り上げが落ちている要因を調べてみたところ、前述の回転寿司のごとく、「服などユニクロやファストファッションなどのディスカウンターで十分」という具合に低価格アパレルに消費を奪われていた。

 しかし、さらに調べてみると、全世代にわたって服の消費量は減っていた。市場では生活様式が大きく変わり、消費者は高額なブランド服を買うことはせず、ユニクロで節約したお金を旅行やカフェなどの体験消費、あるいは、化粧品や健康食品などに移していたからである。

「回転寿司」と「ユニクロ」。一見、ディスカウンターが市場に果たした役割は同じように見える。しかし、消費者調査をやり分析する限り「回転寿司」は市場の価格基準値を下げ、より寿司という消費を一般化させることで市場を拡大させていたのに対し、「ユニクロ」は縮小する市場の中で、ヒートテックやブラトップなど、新しい価値を持つ商品を次々に世に出し、自ら市場を創造していったのである。両者は全く違うポジションをとっていたことが明らかになった。

「ファストファッション」もディスカウンターではないか、という見方もあるだろう。しかし、こちらもよく分析してみれば、単なるディスカウンターではないことは明らかだ。ファストファッションが流行った理由は明確で、「使い捨てコンタクトレンズ」が業界に与えた動きによく似ており、新しい市場を創造したから成長したのであり、安いからではない。例えば、「使い捨てコンタクトレンズ」は、それまで同一商品を3年間煮沸して使っていた高額なレンズを「毎日取り替える」ことで、「清潔に使える」という“新しい価値”を生み出した。同様に、ファストファッションも、最新のデザインの服を「使い捨て」で着るスタイルを提案し、常に最先端のファッションに身を包むことができるという“価値を市場に創造”した。

 このように、ディスカウンターを一括りにし、単に「価格が安い」ということで、生鮮食品や寿司、衣料品を全部一緒にして戦略を考えるのは誤りなのである。