女性がリーダーになりたがらないことの裏側には、女性はリーダーとしてのアイデンティティを持ちにくいという事情があります。これは、一般に女性に求められる性質とリーダーに求められる性質が相反すること、女性の持つネットワークが不利になりやすいことなどに起因しています。決して女性が実際にリーダーとしての能力がないわけではないのです。

 組織で働く人たちは、過去の経験を通じてリーダーの持つべき資質や能力がどんなものか、何らかの期待値を持っていて、リーダーと位置付けられた人に接する時、フォロワーは無意識のうちにその資質や能力を期待します。自分がリーダーだと思えるようになるには、その資質や能力があると感じることが必要です。

 典型的なリーダー像とは「意思決定力がある」、「自信がある」、「競争心がある」、「独立している」などです。ちなみに、これらの要素があるとよいリーダーだということではありません。人々がリーダーと言われて思い浮かべるステレオタイプなイメージがこういった内容だという調査の結果です。

 男性、女性にもそれぞれステレオタイプなイメージがあり、これを「ジェンダー・ステレオタイプ」と呼びます。男性に関するステレオタイプには、自信、独立、冒険的、決断力、支配、強さ、競争などが含まれます。これらはリーダーに対するステレオタイプとぴったり一致するのです(※2)

 一方、同様の研究によれば、女性に関するステレオタイプは、配慮、相互依存、暖かさ、繊細、養育、従属性、協力などが含まれます(※3)。リーダーに求められるものと一般に女性に求められてきたものとは、大きく食い違っているのです。このため、女性はリーダーになろうとすると、自分がどんな資質を持つべきか、どのようにふるまうべきかと悩むことになります。

 ステレオタイプの持つ力は大変強いものです。筆者はこうしたステレオタイプのイメージが正しいとも、従うと良いとも思いませんが、世の中の大勢がこうした資質を期待するということは人々の行動を形作る力を持っています。これまで「気配りがある」、「協力的だ」と評価されてきた女性が、リーダーになるには相反するスタイルを身につけねばならないと考えると、リーダーになることは非常に難しく、「自分には能力がない」と認識してしまうのです。

 また、ステレオタイプに合わないふるまいをすると、周囲からの非難を受けやすくなるという面もあります。例えば、専制的なリーダーシップ・スタイルを取る女性は、同じスタイルを取る男性に比べて否定的に評価されてしまいます。リーダーらしくふるまおう、女性らしく見られて侮られないよう、などと気を使い、見た目や話し方などに気を付けることで、かえって不自然だ、無理をしているなどと言われることもあります。

 ダメなリーダーだと思われるのも、女性として魅力がないと思われるのも嫌なものです。ケースの亜紀さんも、これまで良い仲間として一緒に頑張ってきたメンバーにどう思われるかと悩みます。こうした構造が、女性がリーダーになりたがらない理由の一つです。

(※2)Ely, Robin J., Ibarra, Herminia, and Kolb, Deborah M. Taking Gender Into Account: Theory and Design for Women’s Leadership Development Programs. Academy of Management Learning & Education, 2011, Vol. 10, No. 3, 474-493.

(※3)坂田桐子、2014.「選好や行動の男女差はどのように生じるか-性別職域分離を説明する社会心理学の視点」 日本労働研究雑誌 No. 648, July 2014 pp.94-104.