「女王陛下は2008年6月30日に任期が終わるイングランド銀行のマービン・キング総裁の再任をお喜びになっている」。英財務省は2008年1月30日にそのように記者発表した。イングランド銀行法によれば、同行総裁の人選は、財務大臣が首相に助言し、首相は女王陛下に助言、そして女王が任命するという手続きとなっている。

 キング総裁は2013年(任期5年間)まで務めることとなったが、2007年夏のインターバンク市場における流動性危機勃発後の対処に関しては多方面から批判を浴びた。キング総裁は個々の金融機関の責任を強調して、FRBやECBが実行していたような大量資金供給を拒んだ(しかし、ノーザンロックで取り付け騒ぎが起きてからは大規模な特別融資を行なっている)。

 英政府内でもキング総裁の初動の遅れを非難する声はあったが、2007年10月以降それは弱まったという。ノーザンロック破綻に関する監督上の第一義的な責任はFSA(金融サービス機構)にあったという見方が主流になったためである。「厳しい時期だけに、イングランド銀行の舵取りの経験が豊富な人物が選ばれたことは幸運である」と英産業連盟会長は歓迎コメントを発している(「フィナンシャルタイムズ」2008年1月31日付)。

 一方、2008年1月末で任期(4年間)の半分を終えたベン・バーナンキFRB議長については、「2年後に次期大統領は彼を再任するだろうか?」という話題が早くも出始めている。民主党が次期政権を取ると共和党支持のバーナンキが再任される可能性は低下するのでは?という声も聞こえる。「ウォールストリートジャーナル」(2008年1月29日付)は、ローレンス・サマーズ(クリントン政権下の財務長官)を「潜在的後継者」と書いている。

 もっとも、共和党系といっても元来バーナンキの政党色は非常に薄い。また、第2次大戦後で見渡せば、異なる政党から再任されたFRB議長は3人いる。現在のリセッション回避策が成功に至るか否かに彼の再任はかかっている。「ニューヨークタイムズ」(2008年1月30日付)は、現状を「バーナンキの中間テスト」と呼んでいる。

 日本銀行総裁人事は武藤敏郎副総裁の昇格が有力との報道が増加している。金融市場が混乱している時期だけに、現職副総裁が総裁になるほうが市場に安心感を与えられる面は確かにあるだろう。武藤氏が総裁になると、政策委員会のコンセンサス形成を重視する“民主的な”運営スタイルを選択すると思われる。それは透明性向上に寄与するものの、迅速な決断を行なえるかが課題となるだろう。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)