“今年の漢字”に「新」が選ばれました。決して明るいとは言えない世相の中、この字を見て前向きな気持ちになれた方も多かったのではないでしょうか。「言葉」には、人の気持ちを動かす不思議な力があるようです。

 また、先日発表された今年の“新語・流行語大賞”には、「政権交代」が選ばれました。新語・流行語と聞くと、その時期多くつかわれるものの、賞味期限が短く、いつの間にか忘れ去られている言葉との印象を受けます。しかし、過去の受賞を振り返ってみると、その時代や世相を反映した、「時代が生み出した言葉」であることにあらためて気付かされます。一方、これらの言葉は、脈々と次の時代へと引き継がれていく、いわば「時代の起点となる言葉」である、という側面があることも見逃せません。今年起きた出来事からは、特にそのことを強く感じました。

 今年、「政権交代」で大賞を受賞した鳩山由紀夫首相は、民主党党首時代の1996年に「友愛」という言葉で、同じく大賞を受賞しています。まさに、13年越しの夢の実現といったところでしょう。しかし、「政権交代」を「起点」と捉えるならば、真価が問われるのは、まさにこれから、ということになります。

 また、今年の男子プロゴルフツアーで世界最年少の賞金王になった石川遼選手は、2007年に「ハニカミ王子」で、大賞を受賞した後、わずか2年で日本ゴルフ界の頂点に立ちました。しかし、こうした活躍にもかかわらず、今年の新語・流行語に遼君は選ばれていません。これにはきっと意味があって、遼君が世界の頂点に立った時に生み出されるであろう言葉とともに、われわれは「ハニカミ王子」が「起点」であったと、後から気付かされるのだと思います。

環境問題が進展しない理由は
「言葉」のせい?

 環境ブームといわれる昨今、さぞかし多くの環境関連用語がこの賞を受賞してきたのだろうと思い、探してみました。しかし結果は、思いのほか少なかったのです。環境関連用語が“新語・流行語大賞”にデビューしたのは、1990年のことです。この年は四季を通じて異常気象の連続で、「気象観測史上(はじめての・・・)」という言葉が気象予報番組で多く使われ、年間多発語句賞(特別賞)を受賞しています。

 偶然というか、必然というか、1990年とは、京都議定書の基準年度です。今年の9月に国連で鳩山首相が「25%削減」と表明した演説も、この年が基準となっています。新語・流行語に環境関連用語が初登場した1990年が、言葉の上でも「環境時代の起点」となる年だったのです。

 しかし、この言葉はいまも頻繁に耳にすることが多いですし、むしろ最近耳にする機会は増えたような印象すらあります。こうした点からも、気候変動の状況は1990年よりも悪い方向に向かっていることが実感できるのではないでしょうか。

 その後、環境関連用語は「環境ホルモン(1998年)」「クールビズ(2005年)」が年間トップテンに入ったくらいで、未だ環境問題は言葉的にも「起点に止まったまま」といえます。たかが「言葉」の話と思うかもしれませんが、環境問題に対する具体的行動が進展しない理由は、「言葉」の問題も大きいと思うのです。

単独では行動を誘発しない
「環境」という言葉の曖昧さ

 皆さんは、「自然環境」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか? 四季折々の美しい自然美や、森林や川のせせらぎをイメージする人もいれば、手入れの行き届かない荒廃した森林や、よどんでしまった川をイメージする人もいるでしょう。