簡易式の放射線測定器では感知できない
「ベータ線」を出すトリチウム

 このトリチウムが酸素と結合すると、「トリチウム水」という放射能の水になるので、水蒸気となって東日本全域の空気中を漂っているのだ。

 それがわれわれの体内に入って、自由に移動している。
 そしてトリチウムの原子核についていた中性子が、“マイナスの電荷を持った電子”を放出して、“プラスの電荷を持った陽子”に変化し、水素がヘリウムHeになる。

 その時に出される電子が、ベータ線と呼ばれる放射線なのである。
 この放射能が半分に減るまでの期間、半減期は12.3年なので、安全な1000分の1になるのに123年かかるから、この影響はほぼ一世紀続くと思ってよい。

 フクシマ原発事故が起こってから、自分の身を守ろうとして、多くの人が日本中で放射線の測定器を持つようになった。
 危険な汚染地帯に住む人にとって、それ自体は、重要な自己防衛手段である。

 しかしほとんどの人が持っている簡易式の放射線測定器は、放射性のセシウムやヨウ素が出す「ガンマ線」しか測定できないので、ストロンチウム90やトリチウムが出す「ベータ線」を測定していないのである。

 トリチウムが放出するベータ線の電子は、エネルギーが小さいので安全だと言う自称「原子力の専門家」がいて、彼らを新聞記者が取材するので、困ったものだ。

 取材する側も、取材される側も、彼らは人体への医学的な作用機序をまったく知らないのである。