知られざるおそるべき
トリチウムの危険性とは?

問題は、その汚染水に含まれている放射性物質の量と種類である。
 大量に漏洩している放射性セシウムと放射性ストロンチウムは、いずれも、人体に重大かつ深刻な影響を与える。

 この二つの放射性物質の危険性については、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』にくわしく述べたので、必ず読んでいただきたい。しかし、よく知られていないのが、トリチウムの危険性なので、ここで説明しておきたい。

 これが放射性セシウムと放射性ストロンチウムと共に、汚染水に大量に流れこんでいるのだ。

 トリチウムという放射性物質は、元素としては水素である。
 しかし通常の水素は原子核が陽子1個でできているが、トリチウムの原子核は、そこに中性子が2個くっついている。

 重い水素なので、「三重水素」とも呼ばれる。普通の水素とトリチウムの違いを模式的に描くと、この図のようになる。

 この放射性物質トリチウムがなぜおそろしいかというと、化学的には水素なので、水素のように振る舞うからだ。

 つまり人間の体は、大部分が水でできている。水は、水素と酸素の化合物H2Oである。

 血液であれリンパ液であれ、細胞をつくっている中心部分の染色体であれ、その遺伝情報を伝えるデオキシリボ核酸(DNA)の分子であれ、水素なしには存在しない。

 DNAを構成する究極の原子は水素H、炭素C、酸素O、窒素N、リンPである。その水素が、放射線を出す水素になってしまえば、体内で、どれほどおそろしいことが起こるかは、誰でも想像できるだろう。