あの電撃社長交代劇から1年。創業家以外から初の社長に就任した新浪剛史氏は、サントリーに新しい風を巻き起こした。佐治信忠会長が掲げた「2020年に売上高4兆円」という目標達成のため、どんな戦略を描いているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

にいなみ・たけし/慶應義塾大学卒業後、三菱商事入社。ローソン社長、会長を経て、2014年10月より現職。 Photo by Toshiaki Usami

──昨年7月の社長交代会見から1年がたちました。

 この1年はね、本当に忙しかった。佐治信忠会長からは、相当程度の仕事を任せていただいていますし、ローソン社長時代とは比べものにならないくらい忙しいですよ(笑)。

 われわれは、グローバル化を標榜しています。この1年は、多様なポジション、事業の役員・社員と本音で議論をすることに時間をかけました。どういった手法がサントリーにふさわしいグローバル化なのか、必死に考えてきました。社内に向けたものではありますが、サントリー流のグローバル化を軸とした、3カ年計画がまとまりつつあります。

──昨年、1兆6500億円の巨費を投じて買収したビーム社との統合は進んでいますか。

 もちろんです。統合作業で忘れてならないのは、買収企業側が被買収企業側よりも勝っていると調子に乗ってはならないこと。われわれが横柄な態度を見せたら、それこそ1兆6500億円のお金がパーになります。

 世界の先駆者であるビームから学ぶことは非常に多いことも事実です。会議の進め方一つ取ってもそう。今の日系企業のやり方は、絶対に世界で通用しません。グローバルスタンダードと懸け離れているからです。日本人には「沈黙は金」をよしとする風潮があり、ある議題に対して結論を曖昧なままにしておくことが多々あります。

 でも、海外ではそんなことはない。イエス、ノーが明確なんですよね。だから、ビームとの会議で日本人が黙っていたら、先方は「意見がないからイエスなんだ」と勘違いしてしまうわけです。それで3カ月後に「やっぱりノーです」だなんて言ったら、お互いが不幸な結末になっちゃうでしょ。

 だから、サントリーの風土を変革して、「俺はこうしたい、ああしたい」と意見をぶつけ合いながら、統合を進めてきました。

 僕も1カ月に1回はコミュニケーションを取りに米国に行っています。現地の社長と2人だけで、3~4時間、膝を突き合わせて議論をすることもあります。会合場所が、本社のシカゴだとビジネスライク過ぎるので、次回は太陽がサンサンと照り付けるロサンゼルスまで出てきてよ、だなんて言いながらね(笑)。

──ウイスキーなどのスピリッツ事業を担うビーム サントリー社は米国が本社ですが、ガバナンスはどのように行っているのですか。

 基本的には現地に任せています。でもね、ビームにも受け入れてもらわないといけないところがある。それが、サントリーが大事にしてきた創業精神、つまり「やってみなはれ」精神です。

 決してライバルのまねをしない。差別化した商品・サービスでお客さまに喜んでもらう。これは中長期的に浸透させていきたいです。

 もっとも、ビームは生粋の米国籍企業であり、株主から監視される上場企業でもあった。四半期の決算・販売数量など、短期的な成果への執着が強い。こうしたサントリーとは異質のカルチャーの企業に、創業精神を移植することが課題ですね。

 環境変化の激しい時代ですから、ローカルマネジメントが主流。経営は全面的に任せて、根っこの考え方、DNAは共有してもらう。

 そうした作業の中では衝突も起きるでしょう。申し訳ないけれど、考え方が合わない人には去ってもらうことになるでしょう。