会社が目指す方向を
説明せずに体感させる

 Webでの会社説明会にも、実際に集合しての会社説明会にも、前年以上の、そして想定以上の参加者が集まった。そして、Webでも集合しての会社説明会でも演習を実施した。参加者たちは、もとより能力開発演習をすることを承知の上で集まっている参加者であるので、たいへん積極的に演習に参加した。

 参加した学生たちからは、以下のようなフィードバックが得られた。

「N社が目指す方向を実現するために、どういう能力を高める必要があるのかわかった」、「ビジネスパーソンの言動のあり方の一端を知り、自分の能力も伸ばせそうな感じがした」、「他社にない会社説明会だったので、柔軟性に富んだ会社だと思った」、「学生にまで研修してくれるとは、顧客志向に富んだ会社だと思った」、「能力開発に力を入れているN社でこそ、チャレンジのしがいがある」――。

 これらのフィードバックに見るように、O課長は、N社が望む潜在能力を持った学生を、「潜在能力を持った学生求む」という言葉を使わずに、「潜在能力を高める機会を提供する」という案内を出すことで集め、「柔軟性、顧客志向、チャレンジ精神が大切だ」という説明を繰り返す代わりに、これらの潜在能力を高める演習に参加させることで、そのことを体感させることに成功したのである。

 そして、8月以降の面接プロセスに参加した学生数は以前に比べて増え、応募者のレベルも飛躍的に高まった。O課長のみが手応えを感じたのではなく、面接官をした役員や管理職も同様に、応募者のレベルの高さを感じたのだった。応募理由として、能力開発演習に参加したことを挙げる学生も多かったとO課長は言う。

 私は、N社の成功のポイントは、エントリーシート、会社説明会、面接というほとんど全ての会社で実施している従来のプロセスを進めればよいという固定観念を捨てて、何が最も効果的かを、ゼロから模索し始めたことではないか思う。ほとんど100%の企業で実施していることをやらない勇気たるや、相当なものだったのではないかと感服している。

 また、「潜在能力の高い学生とは、潜在能力を高めたいと考える学生のはずだ」と考えたことがポイントで、「能力開発は、自ら能力開発したいと思うかどうかで効果が決まる」という前提を、O課長が是認したことが成功の要因のひとつと思われる。

 さらに、会社説明会に参加した中堅社員、面接に参加した管理職にも、同様の演習を行っている。学生は、説明会や面接で対峙する社員と接することにより、柔軟性、顧客志向、チャレンジ精神といった潜在能力を高める必要性を実感し続けるのである。

 そして、何よりも大きな効果としてO課長が期待していることは、16年入社の新卒者は、入社の段階で既に、N社のバリューが何かを体感し、それを実現できる潜在能力を高めつつある人ばかりになるということだ。その結果、面接後や、内定後の歩留まり率も飛躍的に高まるのではないかと、私は期待している。