『社内プレゼンの資料作成術』がヒット中の前田鎌利さんが、そのエッセンスを伝えるセミナーを開催しました。前田さんがソフトバンクで培い、孫正義氏から「一発OK」を連発したプレゼン術の「超」基本をダイジェストでレクチャー。そのセミナーを再現する連載最終回では、「完璧スライド」に磨き上げるための「基本テクニック10連発」をご紹介します。

「作り手目線」を捨て、「決裁者目線」で磨き上げる

 いったん作り終えたスライドを、そのまま会議の場に持っていってはいけません。そこからいかに「完璧スライド」にブラッシュアップするかが、プレゼンの成否を分けるのです。ここで大切なのは、「作り手目線」を捨て、「決裁者目線」で資料を徹底的に見直すことです。

 自分の主張や言いたいことばかりで決裁者が知りたいことが抜けているスライドはもちろんNGですし、「なんとなく見づらい」だけでも心象は悪くなってしまいます。ささいな数字の間違いひとつで却下されることもありえます。細心の注意を払って、最後のツメを行うことが、採択率を高める重要なポイントなのです。

 ここでは、『社内プレゼンの資料作成術』のなかから、「完璧スライド」に磨き上げる「基本テクニック」をご紹介していきます。

「スライド磨き」のテクニック(1)
一晩寝かせる

 プレゼン資料は、プレゼン当日から少なくとも2日前にはいったん完成させるようにします。そして、最低でも一晩は資料を寝かせてください。なぜなら、資料を作りこんでいる最中は、どうしても「作り手目線」になってしまうからです。いかに「決裁者目線」を心がけていても、「これを伝えたい」という意識が前に立ってしまい、情報過多でわかりにくい資料になりがちです。

 だから、一晩寝かせる。できれば、一度資料のことを忘れるくらいがいいでしょう。そして、はじめてその資料を見るような気持で、「私が決裁者だとして、本当にこのスライドで意思決定できるか?」「このロジックで、10億円投資できるか?」などと考えながら見つめなおすと、必ず、修正点が見つかるはずです。このプロセスを踏むことで、はじめて独りよがりな資料をつくるリスクを避けることができるのです。

「スライド磨き」のテクニック(2)
アペンディックスを充実させる

 本編資料は5~9枚で、提案の骨子(本質的な要素)だけを伝え、補足的な要素はそぎ落とさなければなりません。そのため、決裁者にとって「確認したい点」や「疑問点」が生じるのは当然です。

 大切なのは、決裁者からの質問に対して、即座に応えられるようにこと。そのためにも、本編資料から落としたデータはすべてアペンディックス(別添資料)に入れて、いつでも示すことができるように万全の準備をしておかなければなりません。

 決裁に至らない理由の約8割は、意思決定に必要な材料が揃っていないことにあります。つまり、アペンディックスが不十分で決裁者の「疑念」をクリアにできないことが、否決される最大の要因なのです。

 本編資料とアペンディックスの関係性は、教科書と資料集の関係性に近いものです。本編資料で使うグラフは、わかりやすい形に徹底的に加工しなければなりませんが、アペンディックスは資料集ですから、加工にそれほど手をかけなくてもOK。アペンディックスで大切なのは、一枚一枚の「質」ではなく「量」です。本編資料は5~9枚という制限がありますが、アペンディックスには上限はありません。30枚でも100枚でも、自分が納得、安心できるまで妥協せずに準備していきましょう。

「スライド磨き」のテクニック(3)
「想定FAQ」でアペンディックスを完璧にする

 アペンディックスとして用意するのは、本編スライドから落としたデータだけではありません。決裁者からどのような質問が来るかあらかじめ想定しておき、すべて答えられるよう準備しておくのも、アペンディックスの役割です。

 そこで大切なのは、「決裁者目線」で本編資料を徹底的に見つめなおすことです。「自分が決裁者だったら気になるポイント」を洗い出す。いわば、「想定FAQ」をやるわけです。たとえば、1年分のデータだけを示した本編資料に対して、「さらに遡ったデータはないのか?」というツッコミが入るかもしれません。であれば、過去5年間のデータをアペンディックスとして準備しておきます。

 プレゼンのテーマからはズレたツッコミに対しても、応えられるように準備したほうがいいでしょう。たとえば、次のスライドをご覧ください。これは、あるメーカーの資料をデフォルメしたものです。自社とライバル会社B社の販売量の推移を示したうえで、B社にシェアを奪われていることを説明しているわけです。

 ここで想定されるツッコミは「なぜB社が大きく販売量を伸ばしているのか?」といったことです。もちろん、それに応えるアペンディックスを作成します。

 だけど、これだけだと危ない。というのは、鋭い決裁者は「異常値」に敏感だからです。B社の折れ線グラフをよく見てください。9月ごろに販売量が急増していますよね? 「なぜ9月にB社が急増しているんだ?」というツッコミが入る可能性があります。だから、このようなアペンディックスを用意しておくようにしています。

 ここまでできれば、決裁者から「相当深く検討したうえで、このプレゼンをやっているんだな」と信頼感と安心感をもっていただけます。これも、採択率を上げる重要なポイントなのです。

「スライド磨き」のテクニック(4)
スライドは必ず実写で確認する

 できあがったスライドは、必ず実写で確認してください。パソコンの画面のみのチェックでは、スクリーンの高さや角度、プロジェクターとの相性や発色を確認することができません。また、映し出してみると「フォントが思ったよりも小さかった」「グラフが複雑に見える」といったこともわかります。できるだけ実際にプレゼンで使う部屋で、決裁者が座るイスに腰かけてチェックしましょう。

 もちろん、実際に時間を測りながらトークを実演することも大切です。スライドを使いながら話すことで、「このテキストは不要だ」「このアニメーションはまどろっこしい」と、黙読しているときには気づかなかった修正点が見えてきます。スライドの動きとトークが馴染むまで、何度もトライしてください。

「スライド磨き」のテクニック(5)
チェックシートを利用する

 スライドが出来上がったら、最後に漏れがないかひとつずつ“指さし確認”していきます。

 また、第三者からチェックを受けることを怠らないようにしてください。自分ひとりのチェックには必ず盲点があります。より「決裁者目線」に近い視点をもっている上司や先輩のチェックは必須です。細かい数字のチェックはもちろん、「直感的に理解できるグラフになっているか」「ロジックは破綻していないか」など、客観的な意見をもらいましょう。

「スライド磨き」のテクニック(6)
ハーマンモデルで上司のタイプを確認する

 仕上げの段階では、決裁者の特性に合わせて資料の「見せ方」を変えていきます。もちろん、プレゼンのストーリーを入れ替えるような大工事ではありません。キーメッセージを再考したり、データのスライドを一枚増やしたりといった小さな修正が主になりますが、これが効いてくるのです。

 上司のタイプの参考になるのが、ハーマンモデル。ロジックが首尾一貫しているかを重視する「論理型」、計画性や実現可能性、プロセスを重視する「堅実型」、イノベーティブな新しい発想を好む「独想型」、人間関係や他部署との関係を重んじる「感覚型」の4タイプがあります。

 私は、このハーマンモデルを意識しながら、次のように資料の「見せ方」を変えたものです。
●「論理型」…データなど客観的な事実を、アペンディックスから本編スライドに移す
●「堅実型」…現場でのシミュレーション結果を本編スライドに入れる
●「独想型」…「業界初」など「初」という言葉を強調する。
●「感覚型」…他部署とのコンセンサスがとれていることをアピールする
 このひと手間で、採択率は格段に上がるのです。

「スライド磨き」のテクニック(7)
「1分バージョン」も必ず用意する

 プレゼン資料は3〜5分で終わらせるのが基本ですが、会議は往々にして押してしまうものですし、決裁者が途中退席を余儀なくされる場合もあります。「時間がないから手短に」と言われたときも「1分バージョン」を準備していれば対応できますから、必ず用意するようにしましょう。

「1分バージョン」のつくり方はケースバイケースですが、私は、状況説明の部分をカットするケースが多かったです。決裁者は社内の状況については把握しているものですから、状況説明を省いても理解していただけることが多いでしょう。

「スライド磨き」のテクニック(8)
決裁者の左目を見る

 ここからは、プレゼン本番でのテクニックです。「スライド磨き」のテクニックではありませんが、とても有効な「技」なのでご紹介します。

 プレゼン本番では、必ず決裁者をまっすぐ見つめながら話すようにしてください。手元のパソコンやスクリーンばかり見ていると自信がない印象を与えてしまうからです。

 そして、決裁者の左目を見て話すと効果的です。決裁者の左目から入った情報は、ビジュアルを処理するのが得意が右脳に届くからです。決裁者の左目をまっすぐ見つめながら話せば、決裁者は「この提案に自信があるんだな」という印象をもってくれるのです。いわゆる「エレベータ・プレゼン」をするときも、相手の左側に立ち、左目にアピールすると採択率が上がるでしょう。

「スライド磨き」のテクニック(9)
誰に質問されても決裁者に返す

 質問はその場にいるすべての人物から飛んできますが、誰に質問されても、回答は必ず決裁者に向けて話します。プレゼンの目的は決裁者に意思決定をしてもらうことですから、決裁者が最も重要な存在。常に、決裁者に話すスタンスを保ってください。
「それでは質問者の気分を害するのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、失礼にならないようにするコツがあります。質問者に向かって「はい、他社動向についてですね」と一度クッションを入れ、「それに関しては〜」と本筋の部分では決裁者を見て話すのです。こうすれば失礼にも当たらず、堂々と決裁者に向けて説明できる、というわけです。

「スライド磨き」のテクニック(10)
必ず、「未決裁理由」を確認する

 どんなに完璧な資料を用意しても、決裁者を納得させられずに再付議になることはあります。このようなときはむやみに粘らず、あっさりと引き下がったほうが心象がよいでしょう。

 しかし、手ぶらで帰ってはいけません。「どこまではOKをもらえたのか?」「次回の付議事項は?」の言質は必ず取ったうえでプレゼンを終わらせるようにしてください。ここを明確にしないまま再付議しても、決裁者との議論はまったくかみ合わないものになるでしょう。それでは、何度やっても採択に至ることはありません。

 ですから、必ず、決裁されない理由を確認するようにしてください。そして、ひとつずつ「穴」を埋めていくことが、最短距離でGOサインを勝ち取るセオリーなのです。

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 ここまで、全3回にわたって計30個のテクニックをお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。この30個の「超」基本テクニックをベースに、『社内プレゼンの資料作成術』で詳しく紹介したテクニックを身につければ、決裁者のGOサインに大きく近づくことができるでしょう。

 ただし、これらはあくまでテクニックです。テクニックは重要ですが、それだけでは決裁者は首を縦には振りません。「会社のためになる」「社会のためになる」という強い「念い(おもい)」を持つことが、何よりも大切です。

 その「念い」が強ければ、決裁者がGOサインを出すプレゼンにするためにはどうすればいいか、自然と頭を使うようにもなります。その積み重ねでプレゼンが上達するとともに、採択率は上がっていくのです。どうか、強い念いを持ったプレゼンをしていただきたいと思います。

前田鎌利(まえだ・かまり) 1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。2000年にジェイフォン(現ソフトバンク株式会社)に転職して以降、と17年にわたり移動通信事業に従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者発掘・育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、株式会社ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)がある。