習首席の米国訪問から見えた
「巨人」を巡る光と影
9月22日~25日、習近平中国国家主席が自身初となる米国への公式訪問を実行した。本連載では2014年11月、バラク・オバマ米大統領が中国を公式訪問した際の模様を扱ったことがあったが(習近平とオバマは中南海で何を語っていたのか 3つのシーンから検証する中国民主化の行方)、今回もフォーカス・オンしてみたい。
グローバル政治経済システムにおいて、米国はその経済力を含め唯一中国よりも巨大で、影響力と発言権を誇る主権国家だと言える。そんな米国は、ホームで対中外交を展開する過程において、通常ではうかがい知ることのできない習近平の素顔や、中国という得体の知れない巨人を巡る光と影の部分を引き出してくれるに違いない。
そう、米国というプレイヤーは私たちの中国理解にとって、時に“引き出し役”を担ってくれる。ワシントンDCで習近平訪米を眺めながら、そう感じている。
本稿は、私が米国という引き出しを通じて習近平訪米を覗きこむ過程で、比較的強い印象を抱いた5つの場面をレビューしてみたい。米中関係そのものに関する分析ではなく、米国とのやり取りを通じて、習近平政権の現在地や改革・変化の方向性を掘り起こすという意味である。
1つ目はインターネットを巡る問題だ。2006年、前任者の胡錦濤が米国を公式訪問したときと同様、習近平は西海岸のシアトルから訪問をスタートさせた。
「西海岸、特にシアトルは中国の対米外交から見ればビジネスの拠点であり、政治的敏感性が少なく、中国としてはコントロールしやすい。米国のなかで最も“親中的”な地域の1つと言える。中国の指導者はシアトル訪問を好む傾向にある」(中国党機関紙駐ワシントンDC記者)
シアトル滞在期間中、習近平は中国の航空業も大きく依存しているボーイング社の製造工場や、マイクロソフト社を訪問し、現地の企業家と交流をしたが、なかでも注目されたのがマイクロソフト社と中国インターネット協会が共催した米中インターネットフォーラムである。中国からはアリババの馬雲やテンセントの馬化騰らが、米国からもフェイスブック、アップル、グーグル、IBMといった大企業のCEOらが出席した。
米国側の出席者は、中国がIT市場をより一層開放し、企業への審査や干渉を軽減することを習近平本人に求めるべく発言していたが、そんな発言を横目に、習近平はスピーチの中で次のように主張した。
「中国は平和、安全、開放、協力に基づいたインターネット空間の建設を提唱し、各国が自らの国情に符合するインターネット公共政策を制定することを主張する」
“国情”――。
この2文字を目にしながら、私は2010年のグーグル撤退事件を思い出していた。