成長力の強化は国家的な課題
企業統治改革は「形式」から「実質」へ

9月の金融行政方針では、コーポレートガバナンス・コードについて「形式から実質へ」という方針が打ち出された。経営者が心得るべきポイントとは?

 日本経済の成長力の強化は国家的な課題と言えます。他の先進諸国と比べて低い資本と労働の生産性を高めることなくして、それは実現できません。そのために、企業のコーポレートガバナンスを強化すべきだという問題意識は、広く共有されてきました。

 最近の「スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」の策定は、「車の両輪」として、これまで掛け声先行だった「日本的経営」の改革が本格化する兆しと考えられます。

 企業統治改革におけるこの秋のキーワードは、「形式から実質へ」です。9月に金融庁が発表した「金融行政方針」は、「企業統治改革については、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードを策定したところであるが、これはゴールではなくスタートである。いまだに形式的な対応にとどまっているとの問題点も指摘されていることから、今後更に「形式」から「実質の充実」へと次元を高める必要がある」として、上場会社全体のコーポレートガバナンスのさらなる充実を訴えました。

 安倍首相が9月29日にニューヨークの投資家たちの前で行ったスピーチでは、実質化の内容が一層明確に打ち出されました。首相は「改革リストのトップアジェンダは、コーポレ―トガバナンスの改革」とし、「形式だけでなく、実効的にガバナンスを機能させることが重要です」「CEOなど経営者の選定プロセスの透明化、株式持ち合いの解消に向けて、チェックする仕組みを新たにつくります」と宣言しています。

 総理も指摘した「経営者の選定プロセスの透明化」と「株式持ち合い解消」は、開示する企業側と投資家側の間の認識ギャップが依然大きく、今後のガバナンスの強化・充実の重要な論点です。

ガバナンス実質化の高いハードル
「経営者の選定プロセス」

 企業統治の実質化の目的は、企業価値の持続的向上です。企業経営のあるべき姿とは、法律を含めたルール順守の下で企業が収益を高め、ステークホルダーである株主や従業員、取引先の満足が得られていることであり、それゆえに企業価値と持続可能性が最大化されている状態です。

 日本の企業に関しては、こうした「あるべき姿」の諸要素の中で、リターンが高くない上に意思決定メカニズムがわかりにくい、という投資家からの不満が根強く、そこにガバナンス実質化が叫ばれる根本原因があるのです。