最近、仕事の関係で、東京の新橋や虎ノ門界隈を歩くようになった。書店を見かけるたびに立ち寄って時間を浪費し、慌てて外へ飛び出して目的地へ走らざるを得なくなってしまうのは、一種の職業病といえるだろう。

 その書店で昨年来、多く見かけるのが「IFRS」の文字である。現在の会計関連書籍の半分ほどに、この冠文字が付いている。書棚に「IFRS対応/詰碁問題集」や「柴犬のしつけ方/IFRS編」というものがあれば、筆者などは思わず手を伸ばしてしまいそうだ。

 IFRSの正式名称は“International Financial Reporting Standards”である。うるさい人は「IFRSは、会計処理を定めたものではなく、財務報告を定めたものである」「したがって、国際会計基準ではなく、国際財務報告基準と呼ぶべきだ」と騒ぐらしい。

 筆者は別に「国際カイケー基準」でも差し支えないと考えている。金融庁/企業会計審議会でも「国際会計基準」を用いている。語呂のよさもある。訳語に厳密性を求めるのなら、そもそもの話として“Profit and Loss Statement”を、損益計算書ではなく、「益損」計算書と呼ぶところから改めないといけなくなるだろう。

 ピラミッドの形に「金」の字を連想して「金字塔」と訳した先人の知恵を見習えば、「IFRS」の形を眺めているうちに何かしらの妙訳も浮かぶであろうが、いまは脇に置いておこう。問題なのは、IFRSを扱った書籍のほとんどが制度紹介であり、決算書の様式がどう変わるかといった「ハウツー解説」にとどまっていることだ。

 IFRSの提灯持ちをするのではなく、もう少しユニークな切り口はないものだろうか。書店をあとにして、霞ヶ関方面に向かって歩いているときに思いついたのが、今回のコラムである。

8兆円の売上が消滅する?
IFRSが商社に与える多大な影響

 本連載でも国際会計基準(IFRS)については、何度か登場した。今回は、前回コラム(総合商社編)で扱わなかった住友商事に、IFRSを絡めてみよう。

 とはいえ、住友商事の業績や、同社によるCATV最大手ジュピターテレコムのTOB(株式公開買い付け)をどうこう吟味しようというのではない。総合商社の決算データを利用して、IFRSが経営指標やコスト構造にどのような影響を及ぼすのかを解析する内容である。この点について総合商社は、格好の題材を提供してくれるのだ。それでは「マジカルIFRSツアー」をスタートする。

 最初に、〔図表 1〕で道しるべを示すことにしよう。

 まずは〔図表 1〕(1)に関する検証である。代理人ビジネスについては、第20回コラム(JT編)と前回コラム(総合商社編)で説明した。簡単に復習をしておこう。