データを大量に蓄積しても
消費者がつかめないジレンマ

 現在、多くの企業は、「ファネルモデル」のマーケティングを実践しています。このモデルでは、企業が、製品や広告などのコミュニケーションによって、顧客を説得できることが前提になっています。

 ところが、消費者には個々それぞれのウォンツやニーズがあります。これらは人間の本能的な欲求(デザイア)に基づくもので、決して、企業が独りよがりに創造できるものではありません。

 これまではここが見落とされ、あくまで製品やサービスの供給を行うことによって、その結果、需要が生まれるものと考えられてきました。これとは逆に、消費者を起点に需要が発生するプロセスは、どんなふうに描かれるのでしょうか。そのメカニズムを、私は知りたかったのです。

 これに対しシュルツ教授は、「データマネジメント」へのアプローチの重要性を説く中で、消費者起点の需要発生プロセスを解説すると同時に、最先端のマーケティングにチャレンジしているグローバル企業においても、このアプローチはいまだ確立されていないという指摘を加えました。

 真のインテグレーションとは、一つのプラットフォームの中にこれまで蓄積したデータが適切に管理され、それを統合して活用できるようになったときに初めて実現できると考えられます。これが実現すれば、もっと個々の顧客の姿が把握でき、顧客それぞれと適切な統合コミュニケーションが行えるようになるでしょう。

 ところが、グローバル企業においてさえも、ただただ、莫大なデータを収集するのみで、いまだ統合コミュニケーションが実現できる段階には至っていないというのです。

 昨年の同イベントでも、私はやはりシュルツ教授に多くのデータからインサイトを得る方法について質問をしました。ここ数年、日本でもデータサイエンティストという職業に関心が高まりつつあることを受けて、私は彼らの役割について教授に聞いてみたのです。

 すると、データサイエンティストに頼るべきは、プラットフォームを整備してデータを一元化する仕事であり、そこから消費者のインサイトをいかにして得るかは、彼らのみに任せるものではなく、別の課題だという答えが返ってきました。

 それから1年経った今も、状況は世界的にあまり変わっていないようです。

※ファネルモデル:funnel(ろうと)のように、多くの潜在顧客から購買層へと絞り込まれるマーケティングモデル