ハーバードビジネススクールを代表する人気教授、デビッド・モス教授。多くの学生や卒業生がその授業を絶賛する。日本の金融史、金融政策についても研究を続けており、昨年までMBAプログラムの必修科目でアベノミクスの事例を教えていた。

モス教授はアベノミクスに対してどのような評価をしているのか。学生は日本の金融政策から何を学んでいるのか。野村マネジメント・スクールのエグゼクティブ講座のため来日したモス教授に伺った。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年7月26日)

なぜハーバードの学生が
日本の金融政策を学ぶのか

デビッド・モス David Moss
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理(特に金融史、政策史)。同校のBGIE(ビジネス・政府・国際経済)部門に所属。MBAプログラムでは選択科目「近代的金融システムの形成」、「アメリカ民主主義の歴史」、ハーバード大学の学部生プログラムでは「アメリカ民主主義の歴史」を教えている。アメリカ国内はもとより世界各国のエグゼクティブ講座でも教鞭をとる。日本では野村マネジメント・スクールの教授も務めている。ハーバードビジネススクールを代表する人気教授であり、学生が選ぶ「最高の教授賞」を過去8回受賞。近編著に“Preventing Regulatory Capture: Special Interest Influence and How to Limit It”(ダニエル・カーペンター編、デビッド・モス編、Cambridge University Press, 2013)。

佐藤 BGIE(ビジネス・政府・国際経済)という授業で、日本のアベノミクスについても議論すると伺いました。昨年までモス教授もこの授業を教えられていたとのことですが、なぜ現在の日本の金融政策について学ぶ必要があると思いますか。

モス 1990年代前半のバブル崩壊から現在に至るまでの日本経済の推移と政府の政策を見てみましょう。この事例から学べるのは、「有事の際には、いかに早く政府が対応するかが決め手となる」ということです。

 現在、安倍首相は、大胆な金融政策を推進しようとしています。日本経済における安倍首相の功績は大きいと思いますし、安倍政権の政策そのものも正しいと私は評価しています。ただ、とても残念なのは、こうした金融政策が、バブル崩壊後、20年以上もたってから実行されていることです。本当はバブル崩壊直後に行うべき政策であった、と思います。金融危機対策は発生から数週間、数ヵ月間が勝負。このスピードがその後の経済回復に大きく影響してきます。

 たとえば心臓発作や脳梗塞を起こした人がいたとします。1時間以内に適切な薬を飲めるかどうかで、その後の運命が決まります。何日も経ってから薬を飲んだところで時すでに遅し、です。同じことが金融政策にも言えます。国の経済が発作を起こした際に必要なのは、とにかく早く緊急治療を行うことです。