運用者によって
毒にも薬にもなる

 そういう意味で、私が社長時代に招聘し、いまも吉野家ホールディングスの社外取締役を務める内倉栄三さんはとてもよく機能していると思われます。彼はもともと野村総合研究所の出身で、転職してゴールドマン・サックス証券会社でシニア・アナリストとして働いていたころ、当社の海外のIRなどを見てくれていました。

 予測が的確と小売流通セクターでも評判で、優秀なアナリスト。歯に衣着せず、相手にとって耳が痛いことも平気で言うので、多分に煙たがられる存在だったと思います(笑)。しかし私は、彼のそんなところも含めて大変チャーミングな男なので、独立した後で取締役として来てもらえるよう依頼しました。2011年のことです。その際、彼はすでにアドバイザリー契約を結んでいた他社からの承諾を得るなど、身辺の整理をすべてつけてから初めて承諾の返事をくれましたが、その律儀さにも感心しました。

 吉野家ホールディングスとしては、彼が初めての社外取締役でした。当時から企業の客観性、透明性という点では相応水準にあると自負していましたが、彼に期待したのは別のこと。私は長年社長の立場にあり、取締役会に出る役員たちとも古い仲間。どうしてもお互いに何を考えているかが分かってしまい、質疑応答で質問が出なくなりがちです。会議の場ではほとんど私がしゃべって終わりという状態。そこで内倉さんに来てもらったら、思惑通り取締役会の空気が一変しました。

 例えば当時、アジアをはじめとする海外展開が経営戦略の大きな柱でありながら、なかなか順調に伸びていませんでした。内倉さんは取締役会の度に、一貫して海外を成長させるための問題点を確認します。うまくいっていないとしたらどう立て直そうとしているのか。課題達成に向けて、進捗の急所の一つひとつを納得するまで徹底的に質問をしてくるので、あらためて問題の再認識ができ、かつ議論が活発になりました。

 このように、社外取締役の役割を私の経験から考えていくと、言えるのは「株主目線」「理念の番人」「取締役会の活性化」の三つです。こうした役割を踏まえた上で、つまるところは雇い入れる企業の経営者がどういう見識、料簡でいるかに帰結します。どんなに立派な制度を作り、日本で有数の役者をそろえても、執行者が「誰のため、何のための執行者か」を正しく認識し、依頼する相手と共有していないと、有効に機能しないからです。

 むしろ設置しただけで「うちはここまでやっているから、独断専行にはならない」という根拠のない安心感を社内外にメッセージし、「だから大丈夫」という詭弁がまかり通ってしまいます。

 来年からはますます社外取締役の設置会社が増えますが、設置の意味を誤ってはいけません。大事なのは、制度自体よりも運用する経営者の見識なのです。社外取締役は、運用者によって毒にも薬にもなる。その功罪を認識し、経営者の方々は今一度、「誰のため、何のための社外取締役か」を考えてみてください。