JAXA宇宙飛行士の油井亀美也氏は、現在第44次/第45次クルーとして国際宇宙ステーションに長期滞在中で、日本時間の12月11日午後10時10分ごろ地上に帰還予定だ。元自衛隊パイロットという異色の経歴の油井氏は、初めてのフライトで何を思うのか。彼の想いやメッセージをリアルタイムで地上に届けるため、軌道上から特別に寄稿をいただいた。油井氏によるレポートの後編。前編「宇宙飛行士にとってのコミュニケーション技術とは?」もご覧いただきたい。
自分を信じる心は、
厳しい訓練からしか生まれない
宇宙という過酷な環境で仕事をするとき、常に念頭においておかなければならない大切なことが多くあります。その一つが「すべての人間はミスを犯す可能性があり、宇宙飛行士といえども例外ではない」ということです。
宇宙飛行士は完璧な人間で、決してミスを犯さない人たちだけがなれると思っている方がいるかもしれません。しかし、それは誤りです。ただ、宇宙での失敗は高額な機材の損傷や命に関わることは事実であり、ミスを最小限にする努力と、ミスを犯してもそれが致命的にならないような対策はしています。
提供:JAXA/NASA
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宇宙飛行士が軌道上で行うメインテナンスや実験、宇宙船の把持(はじ)、船外活動などは、宇宙ステーションの存続や実験データの取得に必要なものばかりです。もし宇宙飛行士がミスをすれば、これまで継続してきた宇宙ステーション計画全体へも影響すら与えかねません。
たとえば、私が今回のミッションで、ロボット・アームを使用して把持した宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機(HTV5)には、多くの重要な実験機器や補給品が搭載されていました。他国の補給機の事故が相次いでいたこともあり、「こうのとり」の輸送の成否は、6人のクルーが宇宙ステーションに滞在を継続できるかどうかを決めるほどの重要性があったのです。
そのようなプレッシャーの中で、しっかりと確実に任務を成功させるためには、自分自身の技量に対する自信が必須です。そして、その自信を裏付けしてくれるのは、それまでの訓練しかありません。あらゆる事態を想定し、厳しい訓練を繰り返し「自分でできることはすべてやった」と納得できることが自信につながるのです。
今回のこうのとりの把持は、月曜日でした。私はこれまで十分すぎるほどの訓練を受けていたのですが、週末にも自分の自由時間を使って、自主訓練を行いました。その結果、当日は世界中の方々が注目するなかでも、落ち着いて、自信をも持って任務を遂行できました。
技術を向上させることで技術未熟による失敗を防げるとともに、自分の技術に自信を持って任務に望むことができ、それは精神的なよりどころとなります。その結果、緊要な場面や大きなプレッシャーが掛かる場面でも実力を出し切り、結果としてミスを防ぐことができるのです。