世界市場へどこまで打って出られるか──。化学メーカーが安定収益源として農薬事業の強化を急いでいる。
住友化学は4月、オーストラリアの農薬最大手、ニューファームに対する株式公開買い付け(TOB)成立を発表した。住化は20%を出資し(取得額約570億円)、筆頭株主となった。2012年度に約100億円の営業利益貢献を見込む。
世界8位のニューファームは、オーストラリアのほか南米や中東欧に販売網を有し、売上高2100億円と9位の住化を500億円程度上回る。「商品構成や販売地域で住化と重複がないため、シナジー効果が出せる」(廣瀬博社長)という。
三井化学も今年2月、海外拡販のため米デュポンとの提携を発表した。まずは殺菌剤の原体の新製品をデュポンに独占供給し、欧州や南米、オーストラリアへの販売拡大を狙う。現地の卸売業者と組む従来方式よりスピードアップが期待できよう。農薬事業の15年度売上高目標は、現在の倍に当たる1000億円だ。
両社が農薬事業の強化を急ぐのは、収益性の高さと、景気に左右されにくい事業特性からだ。住化の場合で、農薬事業の売上高営業利益率は全社の3%を大きく上回る10%前後と見られる。しかも停滞気味の日本市場に対し、世界的な食料増産のおかげで需要拡大が期待できる。世界の農薬市場規模(08年)は、前年比21%増の405億ドルと右肩上がりの成長を続けている。両社としては、景気の波を受けやすい石油化学事業のバッファーとして、早期に農薬事業の基盤を確立したいわけだ。
農薬メーカーは2000年代に世界的な合従連衡(がっしょうれんこう)が進んだ。いまや最大手クラスの独バイエルやスイス・シンジェンタの売上高は8000億円超に上る。日本勢が海外拡販を狙っていくには、今後も業務提携や買収を加速させる必要がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)