リフレ派の論客、飯田泰之・明治大学准教授(左)と、構造改革派の論客、小黒一正・法政大学教授 Photo by Masato Kato

>>(上)より続く

「日本の潜在成長率はゼロに近い」
「景気を良くすれば実力も上がる」

小黒 バブルが崩壊してから、日本の潜在成長率はずっと下がっていっているのが現実です。金融政策が限界に近づき、財政再建計画との関係で大規模な公共事業などもできない。そうなると最終的には民間の自律的な投資活動や、企業の成長戦略が重要なキーポイントになるわけですが、そこが機能しないとやはり0.5%とか、かなりゼロ成長に近い数字を取らざるを得ないのではないでしょうか。

 そもそも、GDPの“規模”の拡大をどこまで目指すべきなのか、ということも考える必要があります。人口が減っていくわけですから、GDP全体の規模が伸びなくても、あるいは小さくなっても、国民1人当たりでは悪くない、ということがあり得る。実際、日本は1人当たりのGDPの伸びでは、先進国の中でも結構頑張っている。ただそれだと、現政権のシナリオとは違ってしまうんですよね。

飯田 日本の潜在成長率を推計するのは非常に難しいのですが、僕はこれからの数字は正直、全然分からないと思っている。

 もちろん、推計するための理論はあります。潜在成長率を大きく左右する要因というのは、「資本の伸び」「人口の伸び」「生産性の伸び」です。人口減少下だと、特に生産性が“命”になるのですが、これは景気が良いと伸びる。やはり実際に景気が良くなると、つまりGDPが成長すると、企業も技術革新などのための投資をしやすいということなんですね。家計と企業で共にバランスシートが軽くなるのでお金を使えるようになる。

 現実のGDPを良くすることが、潜在成長率を上げてくれるというルートがある。そう考えると、景気をしぼませない、最低でも2%台後半の名目成長率という目標を何とか外さないようにするというのが、これからの経済政策運営の基本になると思います。もちろん改革も必要なのですが、改革の追い風になるのはやはり好景気だ、というのが僕の考え方です。

──2016年の日本の景気が実際にどうなるかでも状況が変わりそうですが、どう見ていますか。

飯田 2016年、日本を取り巻く状況は比較的良い。原油はこのまま安いでしょうし、米国経済は基本的に好調です。中国は依然リスクファクターですが、昨年一度落ちたことで“中国の株式市場で問題が起きるとだいたいこのくらい下げる”と分かったのはポジティブです。欧州は、フランスのテロ事件の影響が分かりませんが、債務危機に関してはかつてのような心配は要らない。債務はもうほとんど公的機関が持っているので、危機が起きてもリーマンショックのような民間銀行の連鎖倒産には至らない。国際経済環境で何か注意すべき点はありますか?