ビュエル まさにそのとおりです。学生たちは将来、いろいろな問題に直面していくことでしょう。しかし問題がやってくるときに、「これはオペレーションの問題ですよ」とか「これはリーダーシップの問題ですよ」とか書いてあるわけではありません。ただ解決しなければ問題があるだけです。今、企業が直面する問題で最も難しいのは、様々な部門が関わっている問題であり、テッセイのケースはそれを象徴しているともいえます。

 このケースが特に強烈な印象を残すのは、授業で議論をする際、教員も学生も、リーダーシップ、オペレーション、人事など、「多面的な」視点で考えなければならないからだと思います。こうした機会を与えてくれる事例はなかなかありません。

「両親が恥ずかしく思っている」
清掃スタッフの声も赤裸々に紹介

プラットフォーム下の通路。清掃スタッフの待機所もプラットフォームの下にあった(2014年3月撮影、Courtesy of TESSEI)

佐藤 このケースを読んで、何よりも驚いたのが、本文は4ページと非常に短いのに、そこに12ページもの付表がついていることです。私が特に印象に残ったのが、清掃スタッフの方々のインタビューコメントとプロフィールです。

 まずインタビューコメントについてお伺いしたいのですが、付表には「矢部さんが就任する前、テッセイでどんな経験をしましたか」という質問に対する答えがぎっしりと掲載されています。私もこれまで数多くの教材を読んできましたが、従業員の言葉がそのまま紹介されているケースは珍しいですね。付表といえば数字やグラフばかりですから。なぜ生の声をそのまま掲載したのでしょうか。

バーンスタイン インタビューで聞いた話があまりにも強烈だったので、そのまま紹介したのです。スタッフの方々は、この仕事がいかにきつくて、夏はどれだけ待機所が暑いか、など、日々の苦労を語ってくれました。また、短時間にどれだけの肉体労働と手作業をこなさなくてはならないか、も説明してくれました。

 その中で、矢部さんが就任する前のテッセイでどんな体験をしたか、についても質問しました。すると次のようなことをおっしゃった方々がいらっしゃいました。

「子ども連れの母親にこんなことを言われたことがありました。『親の言うことを聞かないと、あんな人になるのよ』」

「私の両親は私がどこで働いているかを他人には言いませんでした。娘が清掃会社で働いているのは恥ずかしいことだ、と考えていたからです」

(Bernstein, Ethan, and Ryan Buell. "Trouble at Tessei." Harvard Business School Teaching Note 616-031, October 2015. [Revised December 2015.])

 こんな報われない仕事をしている人たちをどうやってやる気にするのか。それとも、やる気になってもらうことはあきらめて、離職率が高くても何とかやっていく方法を考えるのか。そこを学生に考えてもらいたい、と思いました。それで、この質問に対するコメントをそのまま掲載することにしたのです。