ハーバードビジネススクールで「テッセイ」の事例が大絶賛されているという。テッセイとはJR東日本テクノハートTESSEIのこと。授業で紹介されているのは、あの「新幹線お掃除劇場」が誕生するまでの物語だ。

美しい制服や衣装に身をつつんだ清掃スタッフたちが、驚異的な早さで新幹線を清掃する模様は、「7分間の奇跡」として海外メディアでも大きく取り上げられた。

なぜイーサン・バーンスタイン助教授とライアン・ビュエル助教授は、この事例をハーバードで教えたいと思ったのか。

『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書、1月16日発売)にも掲載した両教授のインタビューを3回にわたってお伝えする。(聞き手/佐藤智恵 インタビュー〈電話〉は2015年11月18日)

顧客の目は社員の行動をどう変える?
テッセイは最高の事例

ハーバードの授業で絶賛されたJR東日本の「新幹線お掃除劇場」ライアン・ビュエル Ryan W. Buell
ハーバードビジネススクール助教授。専門はテクノロジーとオペレーションマネジメント。MBAプログラムでは、必修科目「テクノロジーとオペレーションマネジメント」と選択科目「サービスオペレーションのマネジメント」、エグゼクティブプログラムでは「サービスオペレーションのマネジメント」を教える。サービス分野におけるビジネスと顧客との相互作用と、オペレーションの選択が顧客の行動と企業の業績に与える影響を主に研究。ハーバードケネディスクール・パブリックリーダーシップセンターの行動洞察チームにも所属。最新の執筆ケースに“Trouble at Tessei” (Harvard Business School Case 615-044, January 2015)がある。

佐藤 新幹線お掃除劇場をテーマにした『テッセイのトラブル』(“Trouble at Tessei” )という教材が昨年の10月に出版され、大評判となっているとうかがいました。バーンスタイン助教授からこのケースを執筆していることを聞いていたので、私自身、出版されるのを心待ちにしていました。そもそもお二人は、なぜこのケースを共同で執筆しようと思ったのでしょうか。

バーンスタイン ライアン(ライアン・ビュエル助教授、以下ライアン)と私は2007年にハーバードビジネススクールの博士過程に入学した同級生なのです。以来、私たちは、友人として、学者仲間として、ともに成長してきました。ハーバードの教員になってからも、一緒に仕事をする機会をずっと探していましたが、その最初の仕事がテッセイのケースの執筆だったわけです。ライアンと共同で教材を作成できるなんて、最高の体験でした。

ビュエル 私も本当にそう思います。テッセイは、教員になってから初めてイーサン(イーサン・バーンスタイン助教授、以下イーサン)と共同で研究した印象深いケースです。

佐藤 テッセイについて研究しようと思ったのはなぜでしょうか。

ビュエル イーサンから、矢部輝夫さん(筆者注:テッセイを再生させた立役者)が2005年にテッセイの取締役に就任したときに直面した状況を聞いたとき、これは授業で教える事例として大変面白いと思いました。イーサンと私はお互い研究分野は違いますが、二人とも「透明性が社員に与える影響」については共通した興味を持っています。つまり「管理職や顧客に見られていることが、一般社員の行動をどのように変えるか」を研究するのに、テッセイは最高の事例だと思いました。

 イーサンと力を合わせて、テッセイの感動的な物語を素晴らしい教材にしたいと思いました。この事例を世界中から来ている学生やエグゼクティブに伝えたい、矢部さんの経験から学んでほしい、と思ったのです。