ハーバードビジネススクールで日本の金融政策を教えているローラ・アルファーロ教授。2008年1月に出版した『日本の金融政策』という教材は、同年秋に起きたアメリカの金融危機後の量的緩和政策を予言した、と話題になった。日本の金融政策の歴史が、アメリカの金融危機を救った、というが、それはどういう意味なのか。『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)にも掲載されたローラ・アルファーロ教授のインタビューを紹介する。(聞き手/佐藤智恵 インタビュー〈電話〉は2015年11月5日)
ハーバードでも盛り上がる
アベノミクスの授業
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理(国際経済)。中米コスタリカ出身。現在、ハーバードビジネススクールとハーバードケネディスクールのジョイント講座「競争力のミクロ経済学:企業、クラスター、経済開発」を教えている。国際経済の分野では、特に国際資本移動、外国直接投資、ソブリン債を専門に研究。2008年、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーに選出。2010年から2012年までコスタリカの国家計画・経済開発大臣を務めた。日本の金融政策についても数多くの教材を執筆。主な執筆ケースに“Japan's Missing Arrow?"(Harvard Business School Case 715-050, April 2015. Revised May 2015.), “Kinyuseisaku: Monetary Policy in Japan (A)”(Harvard Business School Case 708-017, January 2008. Revised April 2009.)がある。
佐藤 アルファーロ教授は、日本の金融政策について多くの教材を執筆されています。2015年にはアベノミクスをテーマに『日本政府が放った矢は的を射たか?』という教材を出版されました。なぜアベノミクスについて書こうと思ったのでしょうか。
アルファーロ 2008年に『日本の金融政策』というケースを執筆して以来、それをもとに何度も内容を更新してきたのですが、そろそろ新しいケースを1つ書いたほうがいいかなと思い、アベノミクスについてのケースを書くことにしました。
佐藤 アベノミクスについては、どの授業で教えていらっしゃるのですか。
アルファーロ 「ジェネラルマネジメントプログラム」(GMP)というエグゼクティブプログラムで教えています。毎回、160人のエグゼクティブが参加しています。
佐藤 エグゼクティブプログラムで学んでいるのは、経営幹部の方が多いですが、アベノミクスについてのケースを通じてどんなことを教えたいと考えていますか。
アルファーロ 金融政策とは何か、金融政策はどのように機能するか、を学んでほしいですね。金融政策というのは、ビジネス行動や消費者行動に影響を与えるものでなくてはなりません。「金融政策を実施すれば、自動的に景気はよくなる」と考えている人は多いですが、実際にはそうではありません。消費し、投資し、貯蓄するという国民の経済活動を刺激する政策でなければ、いくら実施したところで効果は出ないのです。
それから、金融政策、財政政策、構造政策が及ぼす相互作用についても学んでほしいと思います。アベノミクスの三本目の矢は構造改革ですが、構造改革はどの国においても効果を上げるのが大変難しい政策です。