生活保護世帯の浪費は、「生活保護なのに!」「生活保護費がゼイタクすぎる!」という批判の対象になりがちだ。では、節約や貯蓄はどうだろうか? 眉をひそめられる用途でなく、通常なら賞賛される用途の消費なら良いのだろうか? 

今回は、生活保護世帯に対して年一回求められるようになった資産申告書から、「生活保護の生活」を考えてみたい。

浪費もパチンコも節約も貯金もダメ
「生活保護らしい」生き方とは?

生活保護世帯には貯蓄は許されないのか?

 今回は、2016年に入ってから問題として表面化しはじめた、生活保護世帯に対する「資産申告書」問題を中心に、「生活保護での生活」を掘り下げたい。

 約1年前の2015年3月11日、「生活保護世帯は年に一度、資産の状況を書面(資産申告書)で申告すべし」という内容を含む厚労省通達が発行された。1年が経過した現在、実施の方法や強制力が問題になっている。なお、資産申告書の提出は法的義務ではなく、拒んだ場合にもペナルティが課されることはないのだが、「義務」「強制」という誤解と生活保護利用者たちの困惑が拡がっている(参照:生活保護問題対策全国会議『年1回の資産申告義務化?「Q&Aいったいどうなってるの?資産申告問題ハンドブック」』)。

生活保護問題対策全国会議『年1回の資産申告義務化?「Q&Aいったいどうなってるの?資産申告問題ハンドブック」』

 生活保護の受給条件は実のところ極めてシンプルで、「資産がなく、収入が最低生活費以下」のみである。金額でいえば、手持ち現金(預貯金を含む)は生活保護費のうち生活費分の半分(東京都の稼働年齢の単身者で約4万円)以下、月々の収入は生活保護基準(生活費分+家賃補助分、東京都の稼働年齢の単身者で約13万円)以下であるということだ。この他、持ち家や保険などに関する取扱いの詳細は別途定められているが、保護開始となった時には基本、「資産がなく、生活保護基準以上の収入はない」という状態である。

 資産隠しは、生活保護の不正受給に見られるパターンの一つである。たとえば、「実は資産が2000万円あるのを隠して生活保護を利用し始め、7年が経過していた」は、保護開始時の資産を隠していたことによる問題だ。しかし、今回の「資産申告書」は、保護開始時よりはむしろ、保護開始されて以後に形成された「資産」、言い換えれば、保護費のやりくりによる預貯金が「多くなりすぎていないか?」というものである。

 複数の自治体で行われてきている「生活保護利用者がパチンコをしていないかどうか」に関する立ち入り調査、さらに大分県別府市で行われた「生活保護停止」などのペナルティに対しては、一応、「使えるお金がそもそも少ないんだから、さらに浪費するのは良くない(ましてやパチンコなんて!)」という理解も出来なくはない(なお、厚生労働省と大分県は、別府市・中津市で行われたペナルティを不適切とし、両市は撤回した。参照:産経新聞報道)。しかし、節約し貯蓄し、不測の事態に「自己責任」で備え、あるいは希望を実現するという行動も、生活保護世帯に対しては手放しで奨励されているわけではないのだ。

 今回は、法律・通達の解釈に悩む全国のケースワーカーの「知恵袋」として知られる元ケースワーカー・吉永純氏(花園大学教授・社会福祉学)、東京都内の生活保護の現場で現在もケースワーカーとして日々の業務に取り組む田川英信氏、生活保護制度に関する歴史研究の第一人者の一人である岩永理恵氏(日本女子大学准教授・社会福祉学)に、この「資産申告書」問題についてお話を聞いた。