オジサンも集う東京・表参道のGOPAN cafe

 東京都渋谷区、表参道駅から徒歩7分、明治通りから一本路地を入ったところにあるカフェには、珍しい光景が広がっている。ランチやコーヒーを楽しむ若い男女に交じり、たくさんのオジサンたちが食事をしているのだ。

 このオジサンたちは全国の農家やJA、自治体の人々。カフェを訪れる理由は、ここが日本で唯一、お米から作ったパン、「GOPAN」(ゴパン)を試食できるGOPAN cafeだからだ。

 カフェで食事や飲み物を注文すると、「新潟県魚沼産こしひかり」や「山形県産はえぬき」など2種類のお米から作ったゴパンを試食できる(9月30日まで)。一日限定160食のため、夕方には品切れとなってしまう。

 このゴパンを目当てに、なぜ全国からオジサンたちが集まってくるのか。その前に、この注目を集めているゴパンとはどのようなパンなのか、説明しよう。

 三洋電機が今年7月に発表し話題となった新型ホームベーカリー「GOPAN」で焼いたパンのことだ(市販は10月8日)。原材料は小麦粉や米粉(こめこ)ではなく、どこの家庭にもあるお米であることが最大の特徴だ。じつはこの機能、世界初である。

食感は、しっとり、もちもち。

 では、お米でパンを焼くメリットとは何か。

 何よりお米は、小麦粉に比べてカロリーが低くヘルシーである。また、小麦アレルギーの人でも食べることが可能だ。米粉にいたっては、流通量が少なく、価格も高い。それに比べてお米はどこの家庭にもあるし、利用頻度が高いため鮮度が高い。つまり、いつでも新鮮なパンを食べられるのだ。

 ちなみに食感は、小麦粉より水分が多いため、しっとり感があって、もちもちしている。腹持ちもよさそうだ。

 かくもメリットがあるなら、これまでにもお米でパンを焼くホームベーカリーが存在してもよさそうなものだが、お米は硬いため、粉砕するには大型の機械が必要になるのがネックだった。そのカベを打ち破ったのが、三洋電機で炊飯器一筋35年の下澤理如氏だった。

 下澤氏といえば、10万円以上する高級炊飯器市場でトップシェアを誇る「おどり炊き」の生みの親。「飯炊きおじさん」の異名を持つお米のプロフェッショナルである。その下澤氏が「米粒を水でふやかしてから砕けばいい」とのアイデアを考え付いたことから、GOPANが誕生したのである。

 さて、そして冒頭の、全国から集まったオジサンたちが何に期待しているかというと、ゴパンの普及によって、「米の消費量が上がること」に他ならない。背景には、この半世紀で米の消費量が半減したことと、それに伴い食料自給率が昭和37年の71%から41%(2008年)にまで低下したことがある。

 この流れに歯止めをかけ、米の消費量を増やしたい農家やJA、そして、地元米の販売拡大で地方経済の活性化を目論む自治体、食料自給率を上げたい農林水産省のオジサンたちがこぞってゴパンの試食に訪れているというわけだ。

 市販まであと1ヶ月半。予想販売価格は約5万円と少々高いが、お米が原料のためこれまでのホームベーカリーより使い勝手は格段に高い。食への安全志向の高まりなどでホームベーカリーの売り上げが伸びている今、GOPANが急速に浸透する可能性は高そうだ。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)